第3話 呪符
転生してから二年経ち、俺は二歳になった。
そろそろ子供が片言の単語を話すだけでなく、両親と最低限の意志疎通ができる話をしても両親に怪しまれないだろう。
ようやく、陰陽師のお母さんに陰陽師の仕事がやりたいと伝えることができる。
今までは俺が幼すぎて陰陽師の仕事で使うような御札は、両親に遠ざけられていた。
陰陽師や退魔官としての才能が俺にあるから、俺の手の届く所に仕事道具の御札なんかを置いておくのは危ないと思ったのかもしれない。
「ママ、あれは何?」
お母さんにそう言って、俺が指差したのは棚の上の方に置いてある御札だ。御札は高い所に置かれているので、俺の手では届かない位置にある。
「……これのこと?」
お母さんは棚の上にある御札を手にとって、俺に確認する。
「うん、それ」
「これは呪符っていうのよ。陰陽術を使うときに必要なるの」
「陰陽術?」
「そうね……。これならいいかしら」
お母さんは手に持っていた呪符を元の場所に戻し、その呪符とは違う呪符を新しく棚から取り出した。
その呪符は、さっきの呪符と模様が違っていたので、術の効果も違うのだろう。
「よく見てなさい」
「わかった」
お母さんは手に持っている呪符に霊力を流し込んだ。
すると、呪符の前に透明な壁が現れた。
陰陽術、凄い。
突然、何もなかったところに壁を作るなんて。
「何これ?」
「『障壁』っていう陰陽術よ。触ってみてごらん」
「うん」
……壁だ。
手で触ったけど、確かに壁がある。
幻なんかじゃない。
「ふふ、驚いた? これはね、敵の攻撃を防ぐために使うのよ」
「敵?」
「怪異のことよ。怪異は人を襲うから、陰陽師や退魔官は人を守るために怪異と戦っているの」
戦う力がない一般人には厳しい世界だな。
とはいえ、一般人とは違って陰陽師や退魔官は怪異と戦わないといけないから、一般人より死ぬ可能性がありそう。
陰陽師として一人前になったとしても、危険なことには変わりがないから、常に努力し続けよう。
それに陰陽術を使うのは面白そうだから、途中で陰陽師の勉強に飽きることはないだろう。
呪符の作り方と使い方を覚えて、早く陰陽術を使ってみたい。
「それ、やってみたい!」
「なら、霊力を呪符に流せるようにならないとね。はい、この『障壁』の呪符で練習してみなさい」
お母さんがまた棚から『障壁』の呪符を取り出して、俺に渡してくれた。
たぶん、お母さんは俺が霊力を呪符に流すことができるとは思っていない。
だけど、俺が霊力を流せても、危なくないように『障壁』の呪符を選んでくれたのだろう。
どんな呪符が他にあるのか知らないが、お母さんは一番最初に手にしていた呪符を棚に戻していた。
その呪符は危険だったのかもしれない。
いろいろ考えるのは後にして、呪符に霊力を流してみるか。
毎日、『
すると、呆気なく透明な障壁が現れた。
霊力譲渡の練習をしていたおかげで、すぐに陰陽術が使えたのだろうか。
「えっ!? こんなに早く、呪符に霊力を流せるようになるなんて、
俺が初めて陰陽術を使ったことに、お母さんはとても喜んでくれた。
「次はどうするの?」
「……じゃあ、一緒に『障壁』の呪符を作ってみようか。ちょっと待っててね」
そう言って、お母さんはいつも呪符を作っている部屋に行き、何かの箱と紙を持ってきた。
「それは何?」
「
そうしてお母さんは、俺に『障壁』の呪符の作り方を教えてくれた。
霊筆を使って霊墨に霊力を込めながら、霊紙に呪文を書くと呪符は完成する。
呪符の模様のようなものが、呪文だ。
この呪文の種類が呪符の種類になる。
霊紙に『障壁』の呪文を霊筆と霊墨で書いたものが障壁の呪符になるわけだ。
呪符の種類の数だけ呪文を覚えないといけないので、全部覚えるのに時間がかかるし、苦労もしそうだ。
一応、普通の紙と筆、墨を使っても呪符を作れるようだが、霊力をたくさん使うのに呪符の性能が低くなるらしい。
お母さんに呪符作りを教えてもらったので、その日から空いた時間に霊力譲渡、霊力穴塞、身体強化だけでなく、呪符作成も練習するようになった。
まだ『障壁』の呪文しかお母さんは教えてくれなかったので、『障壁』の呪符だけを試行錯誤しながら何枚も作っている。
霊紙と霊筆、霊墨は毎回同じものを使っているので、呪文の書き方や霊力の込め方、霊力を込める量を変化させると、『障壁』の呪符はどのように変化をするのかを観察し、ノートにまとめている。
本当はノートではなく、スマホやパソコンを使いたいが、さすがに今の俺の年齢では買ってもらえない。
二歳で文字を書き始めるのは早すぎるかと思ったが、両親はほとんど気にしてなかった。
とりあえず、まだ漢字は書かないようにしている。
不便だから早く大人になりたい。
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