第26話 チーム結成

「ただいま」


 仕事を終えたルイスは寮に戻り、自分の部屋に入った。同じ部屋のアランの姿はなく、まだ仕事先を探して街の中を動いているようだ。当然のことながらルイスの言葉に対し返事するものはいなかった。


「・・・暇だ」


 夕食まで時間もあり、話し相手となるアランもいない為、ルイスはすることがなく暇だった。こうなるのがわかっていたら、街で時間を潰してから帰ってくれば良かったとルイスは後悔した。


「することもないし、復習でもしておこうかな」


 仕方なくルイスは勉強道具を机に広げた。そして、授業で習ったところの復習をして時間を潰すことにした。


「おっ、ルイス。もう戻っていたんだな。おや? 勉強か? 物好きだねぇ」

「おかえり、アラン。少し時間があったからすることもないし、復習してたよ」


 ある程度復習が進んだところで、アランが戻ってきた。彼はルイスは机に向かって勉強をしているのを見て茶化すように言った。


「で、成果はどうだった?」

「ダメだった。景気が悪いのか知らないけど、本当に働き口がないよ。次の休みまでに見つからなかったら、冒険者でもやって日銭を稼がないといけないかもしれない」


 アランは今日も仕事を見つけることができなかったようだ。お財布事情も厳しいらしく、いよいよ働き口が見つからないようなら冒険者でもして、日銭を稼がないといけないほど危機的な状況のようであった。




「そうなんだ。働き口かぁ。アラン君の言うとおり、同じようなことを言ってる人が周りにもいるね」

「ニコラスは働かなくても大丈夫なの?」


 夕食のとき、たまたま隣にニコラスがいたので、アランから聞いた働き口がないと言う話をした。すると彼からも同じように言っている人が、周りにもいるという話を聞いた。


「僕かい? うちは仕送りがあるから、働かなくても何とかやっていけるよ。でも、貰っているのは学業で必要な最低限だから、遊ぶ金はないけどね」


 ニコラスは家からの仕送りがあるらしく、遊んだりしなければ、働かなくても何とかなるようだ。


「ニコラス君よぉ。それは寂しい学生生活だとは思わないかい? 自由にできる時間がある学生だからこそ、遊ばないと。それには資金がいる」

「そっ、それはそうなんだけど」


 ルイスの隣に座っていたアランがヒョイと顔を出し、ニコラスに持論を展開した。


「よし、一緒に働き口を探そうじゃないか」

「えっ? よっ、よろしく頼む」


 がしっとアランはニコラスの手を握った。その下にはルイスの夕食があり、ブンブン振る2人の手が自分の食べ物に付かないか心配しながらルイスは見守った。


(こっ、これが男の友情というものね。もしかしてこの先には・・・ぐへへ)


 良く考えてみると、男同士が手を握っているのは、幼い頃に拾った薄い本でもある展開だった。それを思い出したルイスはこの先に起こることを想像し、顔がにやけてしまった。


「何ニヤついてるんだ? 気持ちわりーな」


 ルイスのだらしない顔に気が付いたアランが、チクリと言った。


「はっ! 僕は一体何を!」


 はっと我に返ったルイスは、恥ずかしさで顔が真っ赤になった。


「という訳で明日から2人で職探しだ。頑張るぞー! ってニコラスも」

「えっ僕も言わなきゃダメか?」

「当たり前じゃないか。そう、俺たちは仕事上のパートナーになる訳だ」


 ニコラスは一緒に職探しをすることに同意していなかったが、アランは無理矢理仲間に引き込んだ。


「がっ、頑張るぞー!」


 ニコラスは仕方なく周りに遠慮しながら言った。




 そして翌日、朝起きて登校し、午前の授業が始まった。今日は2時限続けて兵科というルイスにとっては過酷な授業内容となっていた。


「では、今から3人でチームを組んで貰う。これからの兵科の授業で実習を伴う場合は、このチーム単位での行動となる。基本的に1年間変更はできないから良く考えてメンバーを決めるように」


 授業時間が始まり校庭に集合したところで、兵科担当のアーノルドが皆の前で言った。このクラスは30人なので全部で10チームできる計算となる。


「ルイス、一緒に組もうぜ」


 ルイスにアランが声をかけてきた。寮の部屋も同じなので気の知れた相手ということだろうとルイスは思った。


「いいよ。それじゃあと1人決めなきゃね」


 ルイスも断る理由がないので快諾した。そして問題となるのは残り1人だ。


「おーい、ニコラス。一緒に組まないか?」

「ああ。ちょうど一緒に組みたいと思っていたところなんだ。よろしく頼むよ」


 アランがニコラスに声を掛けると、彼もあっさりと輪に加わった。そしてクラスで最初に誕生したチームとなった。



「よし、全員チームが組めたようだな。3人で話し合い、前衛、中衛、後衛と言った役割を決めてもらうことになるが、これからの実習を経て適切だと思う役割をチーム内で話し合って決めてくれ。前衛、前衛、後衛又は前衛、後衛、後衛と言った変則的なものでも構わないが、その場合は攻守のバランスが崩れないよう注意が必要だ」


 それからしばらくしてから、クラス全員のチーム分けが終わった。


「では、1限目の残り時間はチームの交流時間とする。役割の方向性や、まだお互いに打ち解けていない場合は雑談でも構わん。結束を固められるように努めてくれ」


 アーノルドはそう言い残し、校舎に戻っていった。


「さあ、俺たちはどうしようか?」


 学生だけ取り残された状態となり、アランがルイスとニコラスの前でどうするか尋ねた。


「取りあえず、役割分担でも決めようか?」

「そうだね」

「まあそうなるよな」


 他のチームは余り会話をしない者たちで集まったところもあり、役割を話し合う前にまず交流をするため雑談を交えながら歓談しているようだ。ルイスたちはある程度知り合えているので、その辺りはすっ飛ばし、役割の話から入った。


「ちなみに俺はやるとしたら前衛だな」

「僕は前衛・・・寄りの中衛かな」

「僕は後衛かな」


 アランは前衛、ニコラスは前衛寄りの中衛、ルイスは後衛と見事に役割が分かれた。


「もう決まったじゃん」

「あはははは」


 アランの一声に、ニコラスは苦笑いをしていた。


「ところで、どうして役割を決めるのかな?」

「ルイス、そんなこともわからないのか? ここの実習は森やダンジョンに行って実際の魔物を狩る実習もあるんだ。そのためにはこの役割が大切なものとなるんだ。例えば俺は盾を持ち魔物の攻撃を受け止め、ニコラスがその間に剣で攻撃、そしてルイスが弓で牽制する」

「教科書どおりの基本的な役割だね」


 ルイスの質問にアランが答え、ニコラスも賛同した。彼らが言うにはこの学校では実際に魔物を狩る実習があるらしい。魔物との戦闘をしたこともないルイスはそれを不安に感じた。


「ルイス、そんなに心配することはないぞ。実習のときは教員がサポートに回るから安全な環境で行われるんだ」

「そうなんだ」


 アランの説明にルイスは少し安心した。


「ところでルイス君は弓が扱えるの?」

「え? 扱えないけど? 多分弓も引けないと思う」

「おい、おい、大丈夫か? ちょっと待ってな」


 ニコラスの問いにルイスが答えるとアランは呆れた顔になり、何かを取りに校庭脇の倉庫に向かった。



「ちょっと引いてみな」

「えっと、どう持てばいいのかな」

「そこからかぁ」


 アランが倉庫から練習用の弓を取ってきてルイスに手渡した。初めて持つ弓にルイスはどう持っていいのかわからず、あたふたしていた。


「弓の使い方もわからないのに、後衛がやりたいってよく言えたな」

「そっ、それは・・・」


 アランの言葉にルイスはどう答えていいのか考えた。ルイスの場合、前衛、中衛、後衛のどれに適性があるかと言われると間違いなく後衛である。さらに言うと国内でもトップクラスの適性を備えている。これは弓を使うわけではなく魔法を使用した場合の話である。余り目立つと自分の素性が知れてしまう可能性もあり、できれば人前では使いたくないとルイスは考えていた。そうなると弓など飛び道具を使う必要性が出てくる。


「僕はルイスが後衛で良いと思うよ。どう見ても前衛向きではないし、もしかしたら弓の才能も秘めてるかもしれないよ?」

「そうだな。使用したことがないだけで、使い方がわかれば変わるかもしれないな」


 ニコラスの援護でアランも納得したようだ。


「それじゃ、ルイスは弓が使えるように頑張るということで、ニコラスはどうなんだ?」

「僕は、剣術を少し勉強した程度かな」


 ルイスの方は今後の課題ということで保留し、今度はニコラスのことについてアランが尋ねた。ニコラスの口調から察すると彼は剣術をどこかで習っていたようだ。


「アランはどうなんだ?」


 このままでは置いていかれると判断したルイスはアランに尋ねた。


「俺か? そんなのしてる訳ないだろ」

「一番偉そうに言ってたのにそれか」

「僕も何かの経験者かと思ったよ」


 アランの回答にルイスとニコラスは予想外の回答に驚いた。


「まあまあ良いじゃないか。どうせこれからミッチリと叩き込まれるんだし、それなりの技術と技能が付かなきゃ魔物討伐なんかに行かせられないよ」

「確かにそうだね」

「まあ、アランの言おうとしたことはわかった」


 アランの言うことは正論だった。授業で魔物討伐を視野に入れた教育がされない状態では魔物の中に放り込まれることはない。これから頑張って習得すれば良いのだとルイスとニコラスは思った。


「あっ、それとチームを組んだ訳だし、お互い敬称はやめないか?」

「それは構わないけど」

「僕もそれで2人ともが良いというならそうするよ」

「よし、決定だ。じゃあ改めてよろしく頼むな。ルイス、ニコラス」


3人は固い握手を交わし友情を深めることにした。

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