第6話 冒険者ギルド

 ルイスは昼食後、これから必要になる日用品の調達をするためにいろいろな店を回っていた。一応予定した物は確保済みで、両手に持っている手提げ袋の中には、購入したたくさんの物が入っていた。


「さて、そろそろ寮に戻ろうかな」


 夕食の時間まではまだ余裕があったが、両手の荷物がいっぱいでこれ以上の買い物は無理だと判断し、ルイスは寮に戻ろうと考えていた。


「おや?」


 ルイスは、今歩いている商業地区の端の方にある建物に目が向いた。


「冒険者ギルド?」


 建物の看板にはそう書かれていた。


(確か冒険者ギルドというのは日雇い労働の斡旋を行っているところだったわね。これからお金も必要になると思うから、どのようなところか見ていくのも良いかもしれないわね)


 確かに、ルイスの思っているとおり、簡単な素材集めの仕事から、様々な仕事を紹介してくれるのは、間違いないのだが、魔物の討伐といった難しい仕事も含まれている。これらの仕事は危険を伴うが、冒険者ギルドの名前くらいしかわからないルイスにとっては、そのような仕事も含まれているとは知らなかった。


(でも今日は、荷物がいっぱいだから早く持って帰った方が良さそうね。冒険者ギルドは次の休みの方が時間も取れるから、またにしましょう)


 結局ルイスは、冒険者ギルドに立ち寄らず、そのまま寮に戻ることにした。



「ただいま戻りました」

「おかえり、早かったね」


 ちょうど寮に入ると、アンナが掃除をしていた。ルイスに気が付くと掃除の手を止めて、話しかけてきた。


「はい、買い物に出かけたのですが、見ての通り荷物がいっぱいになったので帰ってきました」

「おや、まあ。随分と買い込んだものだね」

「来るときに余り荷物を持ってくることができなくて、必要な物を買ってきました」

「そうかい。そういやルイスは王都から来たんだったね。輸送コストを考えたら、こっちで確保した方が良いのかもしれないね」


 本当は城から抜け出すのには、荷物が少ない方が都合が良かったためであったが、アンナは違う方向に納得した様子だった。その方がルイスにも都合が良かったので、特に反論する必要はないと思った。


「そうなんですよ。乗合馬車も荷物が多くなると別料金を取られるし、大荷物だと移動も大変ですから」

「本当に地元の者が多い学校なのに、遠方から来るなんてほんと物好きだね」

「物好きですか・・・」


 変わり者を見るような口調で言うアンナに、少々違和感を覚えたルイスであったが、余り荒波を立ててはいけないと思ったルイスは、それ以上のことは言わなかった。


「では、僕は部屋に戻りますね」

「はいよ。夕食の時間になったら遅れずに来るんだよ」


 アンナはそう言って自分の仕事に戻った。それを見届けたルイスは自分の部屋に行くために階段を上がった。


「810号室っと」


 2階の廊下を歩き、自分の部屋に到着したルイスは部屋のドアを開けた。


「アランは・・・いないようだな」


 同室のアランはまだ戻っていなかった。


「それじゃ、買ってきた物を片付けておこうかな」


 ルイスは手提げ袋の中身を出して、それぞれの収納場所に入れた。そして片付けが終わった頃にアランが部屋に戻ってきた。


「アラン、おかえり。バイトは見つかった?」

「いや、いろいろと当たってはみたが、どこもダメだった」


 アランのバイト探しは失敗に終わったようだった。


「まあ、いよいよとなれば冒険者ギルドかな」

「アラン、冒険者ギルドはダメなの?」


 アランは冒険者ギルドのことを余り良くは思っていない様子だった。疑問に感じたルイスが尋ねた。


「そりゃ、冒険者ギルドに行くような奴って本当に仕事がない者か、よほどの物好きになるぞ。キツい、汚い、危険。正に3Kだな」


 アランは右手の指を3本立てて説明した。


「冒険者ギルドの仕事ってそんなに危険なのかい?」

「ああ、自分の力量に合わない仕事なんか受けてしまったら、生きて帰ることができるか怪しい物もあるんだぜ」

「そっ、そうなんだ」


 アランの話を聞き、ルイスは、勢いで冒険者ギルドに飛び込まなくて良かったと思った。


「ちなみに、どう危険なんだ?」

「えっとな、冒険者という職業にはランクがあるんだ。一番下がEランク。それからD、C、B、Aと上がっていくんだ。初めはEから始まるのだが、仕事をこなしていくと徐々にランクが上がっていくんだ。まあEランクが受ける仕事は危険度が低いが、全く安全という訳ではないんだ。例えば薬草の採取の仕事を受けたとするだろ?それを採取するために森に入ると魔物に遭遇することもある。魔物にも強さがあるが、俺たちで太刀打ちできると思うか?」


 ルイスはフルフルと首を横に振った。魔物というのは動物や昆虫、植物など生き物が凶暴化した物、一度死んだものが動き出したアンデット系、土や石など無機物から生成されるゴーレム系、人とは違った進化を辿った巨人と言った比較的知られている物から、ドラゴンのような伝説級のものまでいろいろ存在する。ルイスも公務で移動する途中に何度か魔物に遭遇したことがあり、そのときは護衛に付いている騎士達が討伐していた。この世界には当たり前のようにそう言った物が存在している。直接ルイスは魔物と戦ったことはないが、騎士が数人がかりで倒す物を自分1人で倒せる筈がないと思った。


「まあ、そう言うことだから、冒険者ギルドに頼るのは、よほど仕事がなくて金に困ったときの最終手段だと思った方が良い。命は大事だからな」

「わかったよ。教えてくれてありがとう」

「まあ、この街に住んでいる奴なら常識なんだがな」

「そうなんだ」


 城があるために警備体制が整っている王都と違い、ここは小領主が治めるところなので、警備体制も甘く、魔物の遭遇してしまう可能性も高いようだ。ルイスは街の外に出るときは気をつけようと心に誓った。



「さて、そろそろ夕食の時間だな。ルイス、いくぞっ」

「おっ、おう」


 アランと会話をしながら時間を潰し、夕食の時間になった。2人は部屋を出て食堂に向かった。



「それじゃみんな聞いておくれ。朝に採寸したものを元に皆の制服を用意したよ。夕食が終わってから配るから、食べ終わって食器を返しても自分の部屋には戻らず、全員食べ終わるまで待つようにね」


 食堂に全員が揃ったところで、アンナから話があり、夕食後に学園の制服を配るようだ。


「わかったら、各自自分の食べ物を取りにきな」


 そう言ってアンナはカウンターの奥に入り、夕食の配膳準備に取りかかった。そして近くにいた者から列を作り、夕食をカウンターで受け取り、自分の席に運んだ。



「「「いただきます」」」


 全員でそう言ってから食べ始めた。そして食べ終わった者から食器を返却し、再び自分の席に戻り座った。



「全員食べ終わったようだね。それじゃ名前を呼んだ者から、制服を受け取りに来な。受け取った者から部屋に戻って良いよ。それじゃ名前を呼ぶよ・・・」


 アンナが順に名前を呼び、それぞれ自分の制服を受け取って部屋に戻っていった。


「アラン」

「はい」


 次々に名前が呼ばれ、アランの順番が回ってきた。アランは制服を受け取ったあと、ルイスの元に戻ってきた。


「仕方ないから待っててやるよ」

「別に待たなくてもいいけど」


 ルイスはアランが待ってくれることに少し嬉しく感じたが、それは表情や口には出さず、ぶっきらぼうに答えた。


「ルイス」


 そしてルイスも名前が呼ばれ、制服を受け取った。


「それじゃ戻ろうか」

「そうだね」


 ルイスとアランは食堂を後にして、自分たちの部屋に戻った。

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