《コラボ企画》【朗報】俺の許嫁になった地味子、家では可愛いしかない。×イロドリミドリ コラボ小説

氷高悠・SEGA/ファンタジア文庫

#1『Little Trip』

「みんなー、聞いて聞いて! 超可愛いコラボ相手が、来てくれたよー!!」

「え、ちょっ!? ハードル! ハードルが高いですよ!?」



 いきなりそんなこと、大声で言わないでくださいよぉ。芹菜せりなさんってば。


 今日の私は、声優の和泉いずみゆうなじゃなくって、ただの綿苗わたなえ結花ゆうかだし。

 和泉いずみゆうなだったとしても、さすがに誇大広告すぎるし。



「ちょっと。芹菜がハイテンションすぎるから、引かれてるじゃないの」


「えー? あーりん、考えすぎだよ! 結花ちゃん、大丈夫だよね?」


「え、あ、はい! 楽しいです!! びっくりするほど、ユートピアみたいですっ!!」



 急に話題を振られたから、テンパって自分でもよく分かんないこと、言っちゃった。

 部屋にいる五人は、「ぷっ!」って吹き出してるし。



 あぅ……最初からだめだめじゃんよぉ、私ってば。




 ――ここは、舞ヶ原まいがはら音楽大学付属舞ヶ原高等学校。


 音楽に力を入れてるこの高校で、芹菜さんを中心に結成したガールズバンドが『イロドリミドリ』。



 TVで観たことあるんだけど、すごいんだよ!

 びっくりするほど可愛い五人が、すっごく素敵な音楽を演奏してるの!!


 そんな『イロドリミドリ』のリーダー・芹菜さんから、コラボのお誘いを受けたときは……びっくりを通り越して、ぽかんとしちゃったよ。

 和泉ゆうなでもなく、なんで綿苗結花な私に? って。



 その疑問に答えるみたいに、芹菜さんが大きく腕を振るって、言いました。



「結花ちゃんとのコラボはね、そこにいるなぎちゃんの発案なんだ! どうしても結花ちゃんとコラボしてみたいって。ね、凪ちゃん!!」


「って、ちゃんなぎ。なんであたしを、盾みたいにしてんだよ」


「べ、別にしてない……」


「ひょっとして、緊張してるのかな? 凪ちゃん、結花さんと会えるって聞いて、とっても喜んでたもんね~♪」


「はぁ、まったく四人とも……ごめんなさいね? やかましいメンバーで」



 元気MAXって感じの、キラキラ輝く笑顔が魅力的な芹菜さん。


 ちっちゃくって、お人形さんみたいにすべすべの肌をしてる、凪さんに。


 凪さんに盾代わりにされてるのは、勝ち気そうなツインテールの美少女、なるさん。


 その隣で微笑んでるのは、ふんわりした眼鏡美人の、なずなさんで。


 そして、日本人離れした抜群のスタイルの良さをした、さらさらの金色の髪をしたアリシアナさん。



 もう……可愛いしかないじゃんよ、この部屋の中!!



 TVで観たときの百万倍くらい可愛い、この最強のガールズバンドが。


 ――――『イロドリミドリ』、なんだねっ!



「結花さん……今日はコラボしてくださって、ありがとうございます」



 ほわっとした気持ちになってた私に向かって、なるさんの後ろから出てきた凪さんが――ぺこっとおじぎをしました。



「動画で結花さんが歌っている姿を観て、本当に感動しました。聞いている方が元気になるような、素敵な歌声だなと……それで是非にと、コラボを提案したんです」


「き、恐縮です……!! 期待に応えられるか分かんないですけど――全力でコラボ、頑張りますねっ!」



 凪さんの水晶みたいに澄んだ瞳が、なんだかくすぐったいけど。

 頑張るぞって……気合いが入ったよ!



「あははっ! 結花ちゃん、そんなにかしこまらないでよー。同じ高二なんだしさ!!」


「そーそー。全然くつろいじゃってよ。ほい、スナック菓子いる?」


「ちょっと、なる。図々しいでしょ……ごめんね、結花ちゃん。失礼な態度で」


「い、いえ、大丈夫ですよ! アリシアナさん!!」


「ほら、また敬語になっちゃってるー。あーりんって呼んで大丈夫だよ! 私のことも、芹菜って呼んでね!!」



 わぁ……すごいコミュ力だなぁ、芹菜さんって。

 コミュニケーション下手な私に、ちょびっとでいいから分けてほしいくらいだよ。


 でも、これから一緒にコラボするのに、こんなに緊張してたらだめだよね。

 よーし! もっとフレンドリーにいくぞぉ!



「う、うん! 芹菜ちゃん、あーりんちゃん。なるちゃんも……どうぞ、よろしくお願いですっ!!」



 ……なんか違う気がする。

 我ながら空回ってるなぁ……あぅぅ。



「あーりんちゃんって、初めて聞くパターンだな。ちょっす、あーりんちゃん先輩?」


「なんで、あんたまで真似するのよ……ほら、雑談はこれくらいにして。そろそろコラボの話を――って、凪ちゃん? どうしたの?」



 あーりんちゃんが小首を傾げたのを見て、私の視線は再び凪ちゃんへ。


 あれ? なんだか凪ちゃん、怪訝な顔になってる……?



「え、えっと……なんか私、おかしなことしたかな?」

「いえ、ちょっと気になったことがありまして……」



 まるで学校モードの私みたいな、淡々とした口調でそう言うと。

 凪ちゃんは両手で丸を作って、自分の目元に当て……って可愛いね、その仕草!



「確か、綿苗さんは学校だと眼鏡を掛けていると聞きました。眼鏡をしたときは、どんな感じなんでしょうか?」


「え? どんな感じ……うーん、地味? とか、お堅い? とか……そんな感じかと」


「そうなんだぁ。眼鏡仲間なんだね、結花ちゃん♪」



 なずなちゃんがにっこりしながら、穏やかに言ってくれました。


 眼鏡仲間かぁ……なんか素敵な響きかもっ!



「じゃ、じゃあ掛けてみます?」

「おおー!! なずなちゃんと結花ちゃんの、眼鏡コラボだねっ!」




 ――というわけで。


 眼鏡を掛けて、髪をポニーテールに結って。


 私は地味でお堅い……学校モードの綿苗結花に、チェンジ。



 そのまま、なずなちゃんの隣に立ってみた。



 ピンク色のふわふわな髪をした、ほんわかスマイルのなずなちゃんと。

 黒髪ポニーテールの、つり目っぽい&無表情な私。



「なんか結花ちゃん、眼鏡掛けたら雰囲気ちがくね?」


「……そうかしら」


「別人みたいよ!? さっきまで私を『あーりんちゃん』って呼んでた結花ちゃんは、どこにいったの!?」


「……遠い世界に」



 やっぱり眼鏡は、私の『拘束具』。

 なんだかこの格好になった途端、自分でもびっくりしちゃうけど、喋り方が学校モードになっちゃった。



「でも、こっちの結花ちゃんも可愛いね♪ ちょっとだけ、凪ちゃんに似てるかも」

「そうですか?」



 私が言うのもなんだけど、ちょっとシンパシー感じるよ? 凪ちゃん。


 そんなことを考えてたら。


 芹菜ちゃんがなんだか――子どもみたいに目を輝かせながら、なずなちゃんに近づいていく。



「結花ちゃんが眼鏡を掛けたら、すっごくキャラが変わっちゃったけど……なずなちゃんが眼鏡を外したら、どうなるんだろ? ね、試していい!?」


「あーあ。芹菜のスイッチが入っちゃったよ」


「はぁ……本当にもう、芹菜ったら」



 なるちゃんとあーりんちゃんが呆れた顔してるけど、芹菜ちゃんは止まらない。


 そんな芹菜ちゃんを前にして、なずなちゃんは「うふふ」って笑うと。


 指先でくいっと眼鏡をずらして――上目遣いになって。



「それはねぇ……ここじゃあ、見せられないよ?」



 その眼鏡越しに見せた表情は、びっくりするほど艶やかで。


 同性の私ですら――ドキッとしちゃったのでした。



          ◆



「さぁ、遊んでばっかりいないで、そろそろコラボやらないとだねっ!」

「一番ふざけていたのは、芹菜先輩だと思いますけど」



 そんなこんなで。


 眼鏡を外して髪をほどき、再び普段の綿苗結花に戻った私は。

 なるちゃんが持ってきてくれたマイクスタンドの前に立ちました。


 ……なんか、緊張してきちゃった。



「えっと……私が歌う感じでいいんですか?」


「もっちろん! だって結花ちゃん、お仕事で歌ったりしてるんでしょ?」


「ちゃんなぎに聞かせてもらったけど、めっちゃいい歌だったもんな……えっと、ドリ、イロドリ……?」


「『ドリーミング・リボン』だよ、なる」


「うにゃ!?」



 急にその曲名を出されたから、変な声が出ちゃった。


 ――『ドリーミング・リボン』。


 それは声優・和泉ゆうなとして、紫ノ宮らんむ先輩とのユニット曲として歌った、私の唯一の持ち曲。



「そうそう、『ドリーミング・リボン』だ! んじゃ、さっそくやるとしようかね」


「え、うそ? まさか皆さん、私の曲を演奏するんですか!?」


「そうよ。結花ちゃんが来るからって、みんなで練習したんだもの」


 あーりんちゃんが、当たり前みたいにそう言うと。

『イロドリミドリ』の五人が、それぞれ準備をはじめた。



 ドラムセットの前に座って、スティックをかまえた芹菜ちゃん。


 純白のギターのあーりんちゃんと、うさぎさんみたいなデザインのギターのなずなちゃん。


 黒いエレキベースを格好良く鳴らしてるのは、なるちゃん。


 そして、キーボードの前に立った途端に凜々しい顔つきになった凪ちゃん。



「よーっし! それじゃあ、みんな! 準備はい――」


「ま、待ってくださいっ!!」



 今にも演奏をはじめそうな勢いだったから、慌てておっきな声を出しちゃった。


 五人とも、きょとんとした顔しちゃってる。



 ごめんなさい……でも私、どうしても。


 これだけは、譲れないんだ。



「えっと、せっかく練習してくれたのに、申し訳ないんだけどね? 私――『イロドリミドリ』の曲が、すっごく好きだから。今日は一緒にコラボって聞いて……『イロドリミドリ』の曲を、練習してきたのっ!!」


「え、そうなの結花ちゃん!?」



 芹菜ちゃんがびっくりした声を上げました。

 そのそばで、なずなちゃんがにっこり素敵な笑顔を浮かべてる。



「嬉しいね~。結花ちゃんは、どの曲がいいのかな?」

「どれでも任せといてよ! うっしゃ、めっちゃ気合い入ってきたぜぇ!!」



 なるちゃんがハイテンションな感じで、エレキベースをかき鳴らしてる。



「んーとね。『Change Our MIRAI!』はサビがすっごい格好いいから歌いたいでしょー。だけど、ポップな感じの『無敵We are one!!』も捨てがたいなぁ。うーん……」


「じゃあ、メドレーにしちゃおうよ!!」



 本気で曲選びに悩みだした私に向かって、芹菜ちゃんが当たり前みたいに言った。



「私たちの曲も、結花ちゃんの曲も、いっぱいコラボしよ? こんな貴重な機会、逃したらもったいないもん!!」



 そんなリーダー・芹菜ちゃんの言葉に。

 他の四人は、揃って笑みを浮かべると。



「確かに、芹菜の言うとおりね。せっかくなら、たくさんコラボしたいわ」


「いいね、いいねー! めっちゃ盛り上がりそうじゃん!!」


「ナイスアイディアです、芹菜先輩」


「今日はいっぱいコラボしようね、結花ちゃん♪」


「ねぇねぇ! 私と結花ちゃんで、制服を入れ替えてみたら面白そうじゃない?」




 そうして、『イロドリミドリ』の五人は。

 私のわがままを聞いてくれて。



「よっしゃ! じゃあ、いきますか!!」



 芹菜ちゃんの掛け声とともに、六人で円陣を組むと。


 空の彼方まで届くくらい、大きな声で――一緒に声を上げました。



「イ・ロ・ド・リ・ミ・ド・リ! コラボを~……ゲットー!!!!!!」



          ◆



「――っていう、夢を見たの!!」



 冷めやらぬ高揚感のまま、私はゆうくんに向かっていっぱい話し掛けちゃう。



「もう五人とも、すっごく可愛くって! ふへへ……あんな素敵なメンバーに入れてもらえたなんて、夢みたいだなぁ」


「夢みたいっていうか、夢の話なんでしょ? 結花」


「夢だけど! 夢みたいな夢だったってことだもん!! もぉ、夢のないこと言わないでよ、遊くんってばぁ」


「……夢が、ゲシュタルト崩壊しそうなんだけど」



 そう。


 さっきまで、遊くんと一緒に、アニメの『イロドリミドリ』を観てた私は。


 楽しい気分のまま、リビングのソファでうたた寝をしちゃって。



 その結果――ドリームコラボの夢を見たのでした!



「楽しかったなぁ。また歌いたいなぁ……よしっ! 今からカラオケに行こ、遊くん?」


「急だな!? もう日が落ちそうなんだけど!?」


「いいじゃんよー、明日は休みなんだし。カラオケに行ってー、ゲームセンターで『チュウニズム』やってー、それからグッズも探してー……」



 遊くんと『イロドリミドリ』デート!


 なんだか考えただけで――わくわくが止まらなくなってきちゃった!!



「ゆーくーん。行こうよー、デートしようよー」


「もぉ、強引だなぁ結花は……それじゃあ、遅くなる前に出掛けようか」


「えへへー。ありがとう遊くん、大好きっ!!」



 そうして、ますます気分が盛り上がってきた私は。


 右手をえいっと振り上げて、一人で声を上げたのでした。




「イ・ロ・ド・リ・ミ・ド・リ! 遊くんのラブも~……ゲットー!!」

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