第19気が付かない気持ち

「いきなりで驚くよね。きっかけというきっかけは多分だけど君と祐介が不良に絡まれていた時かな。実はあの時君たちが絡まれてから少し見ていたんだ。本当だったら祐介が最初に気を失った時に助けに行くはずだったんだけどそのあとすぐに彼は立ち上がり自分よりも身長も力も上の不良に立ち向かった。私はそんな彼をみて最初は不思議な気持ちだった。なぜ勝てないとわかっているのに立ち向かうのか。何が彼をそこまでさせるのか、私にはわからなかった。しかし結果は残酷なものになった。そんな彼を見て知りたくなったんだよ、何で彼があんなことをしたのかとね。祐介と仲良くなればそれが知れると思った。でも次第に彼に向ける気持ちが変わっていった。そして今ではその気持ちは彼への好意へと変わったんだ。ごめん、なんで君にこんなこと話すのかいきなりでわからないよね。」


そう言って冴子は美花の方に少しの笑顔を向けた。

美花は突然の話で何が何なのかわからずじまいだった。

朝は祐介にいきなり褒められ何かを誤魔化されるし自分の気持ちも誤魔化した。

何でそんなことしたのかわからず胸の奥がもやもやとし祐介の顔を見ようとするとつい顔をそらしてしまう。

それが何なのかわからないまま時間だけが過ぎていき最初は話しかけてきた祐介も放課後に近づくにつれ話しかけなくなってきた。

自分のせいで祐介に迷惑をかけてしまったとそんな自分に嫌気がさしていた。

それすら冴子に言えない自分にも。

そして、冴子に連れられ人気がいないところに来たと思ったらいきなり冴子が祐介のことを好きだという。

冴子が祐介と付き合う、本来友人なら喜ぶことであろう。

でも美花はそうではない。

喜びたい、祝ってあげたい、それなのに嫌だ、ダメ、取られたくない、そんな気持ちが美花の心を埋めていた。


「驚いて何を言えばいいのかわからないよね。でも、今のままじゃ祐介は私には振り向いてはくれないと思うんだ。」


『なんでそう思うの?』


何故そう思うのか美花は考えられず冴子に聞き直した。

そして冴子は少しつらい表情をしながら口を開いた。


「それは祐介が美花のことが好きだからだよ。」


その言葉を聞いて鼓動が大きくなり一瞬美花の中の悩みがすべて消し飛んだ。

信じられない、まさかそんなことありえないとすぐさま美花は気持ちを落ち着かせる。


「さっきも言ったけど、なんで祐介が君を守るために自分を犠牲にしてまでも美花のことを守ったと思う。まあ、別にほかの男でもそうするって思えばそうかもしれない。でも、彼は違うと思うんだ。なんでそう思うって言われたら私にはわからない。それでもわからるんだ、祐介は美花のことが好きだって。だから、今のままじゃ私に祐介は振り向いてはくれない。今は美花が好きだから。それでも、いつかは私に振り向いてもらえるようにしていく。だからと言って別に・・・」


『ちょっとまって。いきなりそんなこと言われたって困るよ。私は別に祐介のことを好きなのどうなのかわからないのに、なんで私にそんなこと言うのよ?』


「じゃあ、美花は祐介のことが嫌いなの?」


『ッ・・・それは、』


冴子に言われ美花は言葉が詰まった。

と言えばすぐにこの会話は終わりしばらくすれば祐介は冴子と付き合うだろう。

でも美花はそのが言えないでいる。


「嫌いでは、ないんだと思う。でも、これが好きなのかどうなのかなんてわからない。」


最初は黙っていた美花は祐介のことについて話しだした。

自分に嘘をつかないように。


「美花は祐介のことどう思ってるの?」


『正直言って、わからない。自慢じゃないんだけど、私男の人によく見られるの。』


「美花は綺麗だからね。男子生徒もよく美花を見てるよね。」


『人の視線は、見られてる人って良くわかるでしょ?その男の人たちにしろ男子生徒にしろ私のことじゃなくて私の体を見てるのがよくわかるの。それでこっちが目を合わせればすぐに視線を逸らす。祐介も初めて出会った時他の人と同じだなと思ったの。でも、私も冴子と同じように話していくうちに祐介の事が気になってきたの。

それでも、ふとした時に祐介のこと考えたり、祐介の事考えてると胸の奥が痛んだりする。それで、」


美花が話している途中で冴子は突然立ち上がった。


「どうしたの?」


顔を覗き込もうとしたら冴子は美花に顔を見られまいと顔を逸らした。

そのまま美花に背を向ける。


「私は、美花を陥れるような真似は私はしない。私は正々堂々祐介に好きになってもらうように頑張るよ。」


そう言うと冴子は美花を一人置いて歩き出す。

美花は呼び止めようと手を伸ばすが途中で手を止める。

手を止めたのは後ろから見えた冴子の頬に涙が流れていたから。

冴子は曲がり角に入り美花の前から姿を消した。

そのまま冴子は廊下を通り一人剣道部へと向かう。

すでに帰宅部は全員帰り廊下には外で運動する生徒の声が微かに響く。


「ずるいよ美花、それは美花自身も祐介がってことだよ。」


冴子は涙を手で拭いながらボソッとつぶやいた。












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