第28話 ヨーデルの恋? 2/2

ごきげんよう。

いらしてくださったのですね。嬉しいですわ。

私も早くお話したくて、お待ちしておりましたのよ。

『恋バナ』というのですか。

やはり、微笑ましい恋のお話というのは、良いものですわね。

なにかこう、我が事のようにウキウキとしてきてしまいます。

それではさっそく、前回のお話の続きを・・・・



※※※※※※※※※※



「あ~・・・・おっかしい奴。笑い過ぎて腹痛ぇや」


暫く大笑いをした後、目尻に溜まった涙を拭いながら、ヨーデルは目の前の紅茶に口を付ける。


「・・・・でも、腕は確かだな。旨い紅茶だ」

「うん。ミャーはね、ものすごく頑張っているんだよ、メイドの仕事。それに、兄さんと僕の大事な友達でもあるんだ。だから、ね。ちょっとだけ、取られるような気がして悔しい気持ちはあるけど・・・・」


ユウも紅茶を一口飲むと、サラサラとした漆黒の前髪の隙間から、上目遣いで青みを帯びた大きな瞳をヨーデルに向ける。


「いいんじゃないかな、カテキョだって幸せになったって」

「なんの話だ?」

「ミャーのこと、好きでしょ?」

「・・・・はっ?!」

「あれ?気付いてないの?ミャーの事見るカテキョの目、すっごい優しい目、してるよ?」


ユウに言われて、ヨーデルはドキリとした。

ボーッとしているように見えて、ユウは時々意外な鋭さを発揮する。

確かに、ヨーデルには思い当たる節があった。

ミーシャはヨーデルに、どことなく思い起こさせるのだ。

祖国で命を散らした、オディールの事を。


「寝言は寝て言え。信じて付いてきてくれた者達を残してひとり逃げ延びた俺が、そんな色恋にうつつを抜かせる訳が」

「カテキョって、頭いいくせにバカだよね」

「なに?」


気色ばむヨーデルにもどこ吹く風と、ユウは涼しい顔をして紅茶を飲んでいる。


「みんな【ヨーデル王子】に生きて欲しかったから、幸せになって欲しかったから、だから必死に逃がしてくれたんだよ?」

「そんなことは分かってる」

「分かってるなら、自分で幸せになる努力くらい、ちゃんとしなよ」

「なんだと?!」

「悪いけど、僕、勘はものすごくいいんだ。カテキョは間違いなく、ミャーの事が好きだね」

「バカ言え」

「バカはカテキょだから」

「お前っ!」


カチャリと音を立てて空になったカップをソーサーに戻すと、ユウは目の前のヨーデルを見つめる。

その魂はやはり未だ憎しみと哀しみの色には包まれていたものの、色は確実に薄らいできている。

そして、包まれている魂の色はやはり、輝くばかりの純白。


「誰だって、さ。好きな人、大事な人には、幸せになってもらいたいに決まってるじゃない。僕だったら、たとえ僕が死んだって、キャロルちゃんにはいつでも笑って幸せに生きていって欲しいって、思うよ。それは、カテキョを逃がしてくれた人たちだって・・・・カテキョの恋人だった人だって、同じなんじゃないかな」

「・・・・ん?待て。誰だ?俺の恋人ってのは」


途中まで神妙な面持ちでユウの言葉を聞いていたヨーデルが、怪訝そうな顔をユウに向ける。


「え?オディールさんて、カテキョの恋人だった人でしょ?ほらあの、剣に名前が彫ってある・・・・」


暫し、見つめ合うユウとヨーデル。

そして。

フゥッと溜め息を吐くと、ヨーデルは何とも言えない表情を浮かべ、言った。


「オディールは妹だ」

「・・・・ええぇぇっ?!」

「わっ!もうっ・・・・一国の王子が軽々しく叫び声を上げるもんじゃありませんっ!」


ちょうど、お代わりのお茶をトレイに乗せて部屋へと入って来たミーシャが、飛び上がりながらもお茶を死守しつつ、ユウを叱りつける。


「あ、ごめんね、ミャー。驚かせちゃって」

「ええ、本当に」

「あれ?さっきお前『お茶のお代わりなんて、ありませんからねっ!』とか、言ってなかったか?」

「言ったところでお代わりをお持ちするのは私の仕事ですから。で、なんですかそれは?私の真似ですか?全然似てませんけど」


ミーシャの声色を真似たヨーデルに、ミーシャは冷たい目を向ける。


「ヨーデル様はお代わりはされないということで・・・・」

「いや待て。俺はそんなこと言ってないぞ」

「さ、ユウ様。こちらお茶のお代わりでございます。それでは失礼・・・・」

「おいコラ!俺にもお代わりを」

「あら、お飲みになるんですか?」


冷たい目のままヨーデルの前にお代わりのお茶を置くと、ミーシャは再び部屋を出て行く。


「まったく・・・・なんだあいつは」

「ミャーは昔からああなんだ。全然変わらない。だからね、僕、ミャーの事が大好きなんだよ」


入れたてのお茶に口を付けながら、大きな瞳を細めてユウは笑う。


「そっか・・・・」


ヨーデルもミーシャの入れたお茶に口を付けながら、懐かしい記憶を思い起こしていた。


『バッカじゃないの?そんなんだからヨーデルはダメなのよ』

『なんだとっ?!お前、仮にも兄貴に向かって』

『兄貴だからなんだってのよ?そんなの関係無いじゃない』


ヨーデルの自慢の妹。天真爛漫なオディール。

相手が誰であろうと、自分の意見は貫き、正しいと思った事は曲げず、媚びる事など一切無かった、強い妹。

それは、幼い頃からずっと、死の間際まで、決して変わることは無かった。


「カテキョには、さ。ミャーみたいにハッキリバッサリ言える人がいいと思うんだよね」

「・・・・かもしれないな」


ユウの笑顔に釣られるように微笑みを浮かべたヨーデルだったが。


「つーか、お前らボンクラ兄弟こそ、あいつみたいにハッキリバッサリ言う奴が必要だろ」

「・・・・まぁ、ね」


テヘヘと照れ笑いを浮かべるユウに、ヨーデルは呆れ顔を浮かべる。


「だから、さ。ミャーと結婚しても、ミャーにメイド辞めろとか、言わないでよ?」

「・・・・何の話だ?」

「何って、やだなぁ・・・・ミャーとカテキョの話に決まってるでしょ」


勝手に話を進めて悦に入るユウに、小さくため息を吐きつつも。

自分にとっての大事な人間がまた1人増えることになりそうだと、ヨーデルは心のどこかで感じていた。



※※※※※※※※※※


ヨーデル様はあの通り素敵なお方ですから、本当におモテになるのですが、今まで浮いた話は全くありませんのよ。

ヨーデル様ご自身が、気づかぬ内に拒んでいたのかもしれませんわね。

一方のミーシャも、王子達のお世話で精一杯のようで、やはり浮いた話は全くありませんの。

私としては、どちらにも幸せになって貰いたいのですけれど。

あなたはこの2人を、どうお思いになりますか?

お似合いだと、お思いになりませんか?

まだ、『恋』かどうかも分からない、小さな小さな蕾ですけれど、私は見守って行きたいと、そう思っておりますのよ。

よろしければまた、この2人のお話を、聞きにいらしてくださいな。

ではまた。

ごきげんよう。

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