第13話 カーク王子の悩み 2/3

「スーちゃ・・・・」

「あああぁぁぁっ!」

「きゃははははっ!」


『スウィーティー姫は中庭にいらっしゃいます』


との言葉に中庭へと足を延ばしたカークは、その光景を目撃して唖然として足を止めた。

そこには、全身泥まみれの護衛隊員の姿と、その姿を見て楽しそうに笑うスウィーティーの姿が。


「スーちゃんっ!」

「あっ!カークっ!」


精霊たちを引き連れ、スウィーティーがカークへと駆け寄る。

本来であれば、その愛らしい笑顔をうかべるスウィーティーを抱きしめたいところではあったが、カークは心を鬼にしてスウィーティーを叱った。


「ダメじゃないか、あんなことしちゃ。あの人は、スーちゃんの事を守ってくれている人なんだよ。それに、精霊の力はそんな事に使うものじゃない」

「・・・・カーク・・・・」

「さ、俺も一緒に謝ってあげるから。ちゃんと謝ろうね、スーちゃん」

「・・・・はい」


すっかりしょげかえるスウィーティーの顔に心が痛んだものの、それでもカークはスウィーティーの手を引いて、被害にあった護衛隊員の元へと向かう。


(スーちゃんをちゃんと叱れるのは、チェルシー女王と俺くらいのもんなんだから。キャロルちゃんもユウも、スーちゃんのこと甘やかし過ぎだし。悪い事した時はちゃんと叱ってあげないと)


「スウィーティー姫がこんなことをして悪かった。俺からもよく言い聞かせるから、許して貰えないだろうか?」

「・・・・あの、ごめんなさい・・・・」

「はっ、もったいないお言葉を!これくらいのことは、大したことではございませんので、どうかお気になさらず!」


カークがギャグ王国の第一王子であることも、スウィーティーの婚約者だということも、もはやロマンス王国の国中の人間が知っている。

カークの言葉とスウィーティーの謝罪に護衛隊員は逆に緊張をしてしまったようで、泥だらけの体を強張らせて直立不動状態だ。


「そうそう、こんなこと日常茶飯事なんですよ、カーク様」


そこへ、中庭の奥から、体に絡まった蔦を振り払いながら、ロマンス王国のメイド長が姿を現した。

どうやらメイド長は、体中を蔦まみれにされてしまったらしい。


「まったく、姫様の悪戯には困ったものです。ですが、遊びたい盛りのお年頃ということも、分かりますからねぇ」


苦笑を浮かべ、メイド長は言った。


「こんな悪戯をするのも、ほんの数年の間でしょうし。これで姫様の気が晴れるというのであれば、その悪戯にお付き合いするのも我々の仕事だと、皆心得ておりますよ」


苦笑を浮かべているメイド長も、泥だらけの護衛隊員も。

スウィーティーを見つめる目は、あくまでも優しくて温かい。


(スーちゃん、キミはみんなからとても愛されているんだね)


嬉しくなって、カークは2人に深々と頭を下げた。


「ありがとうございます!でもやはり度が過ぎる悪戯はどうかと思いますので、俺からしっかり言い聞かせておきます。これからもどうか、スウィーティー姫のことを、よろしくお願いします!」




「スーちゃんはどうして、あんな悪戯をするんだ?」


中庭のベンチに並んで座り、カークはスウィーティーに問いかけた。


「・・・・つまんなかったから」


すっかりしょげかえってしまったスウィーティーは、俯いたまま小さな声で答える。


「そっか。でもだからって、人に迷惑をかけるような事はしちゃダメだろ?」

「・・・・ごめんなさい」


謝るスウィーティーの声は、先ほどよりも小さくか細くなっている。


(参ったな・・・・俺、スーちゃんのこんな顔見に来た訳じゃないのに)


そう思いながらも、カークはふと、自分が幼い頃に父から叱られたことを思いだした。

カークも幼い頃、寂しさを紛らわすために火の精霊を使って1人で遊び、危うく城中を火の海にするところだったのだ。


『精霊は、お前の遊び道具ではないのだよ。決して、人を危険に晒すような、人に迷惑をかけるような使い方をしてはならない』


そう叱った父の顔は険しく、とても怖かった。

だが。


『精霊と遊ぶなら、精霊が喜ぶような事をしてごらん?そうすれば、お前と精霊の絆もより深くなる。絆が深くなれば、時として強力な力を使う事ができる。・・・・できれば、強力な力を使わざるを得ない状況には、なりたくはないがね』


父はそう、カークに言った。

以降、カークは精霊に問い、精霊が望む事をするようになった。

そのお陰もあってか、今ではカークが操る火の力は、父をも凌ぐほどの力だ。


「ねぇ、スーちゃん」


涙で潤んだ瞳が、カークを見上げる。

その瞳に、カークは微笑んで言った。


「俺と一緒に、精霊たちと遊ぼうか?精霊たちもね、もっと楽しい事をしてスーちゃんと遊びたいと思っているんじゃないかな?」

「え・・・・?」

「精霊たちが何をしたいのか、まずは聞いてみようか?」

「うんっ!」


沈んだスウィーティーの顔に、ようやく笑顔が戻った。

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