第10話 ロマンス王国:ヨーデルの過去 3/3
「お前、こんな力があるのに、何で捕まったんだ?」
「へへっ、ちょっとうっかりしてて」
「どんだけうっかりだよ」
「ちょっと!そんなに離れないでよっ!結界からはみ出たら意味ないじゃないっ!」
「・・・・めんどくせーな。もっとデカい結界張れねぇのかよ」
「もぅっ!文句ばっかり言わないでよっ!」
最大限の結界を張り、ユウはヨーデルと一緒にヨーデルの祖国を後にした。
もちろん、国を出るまでの間には、何度も『現王派』に襲われたが、ヨーデルは腰の剣に手を伸ばすことは無かった。
そんなことをしなくとも、『現王派』の攻撃は結界に阻まれ、ユウとヨーデルに髪の毛一筋ほどの傷も与える事はできないのだ。
信じられない物を見るようなたくさんの目に見送られて、祖国を後にするとき。
ヨーデルは、振り返ってじっと、王宮の方を見つめていた。
きっとその胸には、様々な想いが去来していたに違いない。
ヨーデルの胸の内を推し量ることなど到底できはしないが、ユウにだってそれくらいは分かった。
「で?お前の国とやらは、どこにあるんだ?」
「うん、もうちょっと・・・・あ、ここ、ここ」
「は?どこ?」
「もう、ヨーデルったらバカなの?僕言ったよねぇ?外界から見えないような術を施してあるって。ほら」
ユウが空中に手をかざすと、かざした空間が波紋のように歪み始め、人1人が通れる空間が姿を現す。
「すげぇな、おい・・・・」
「この中にはね、魂の色が穢れている人は、入れないんだよ」
「なんだよそれ。じゃあ俺、入れねぇじゃん」
「入れるよ」
そう言うと、ユウはヨーデルの胸元、ちょうど心臓の真上辺りに右手を添える。
「僕には見えるんだ、人の魂の色が。今は哀しみと憎しみの色で覆われてしまっているけれど、キミの魂はそのどちらにも染まっていない。真っ白な魂が、僕には見える。だから」
スッと目を閉じると、左手を自分の胸に当て、ユウは呟いた。
「ギャグ王国第二王子の名において、この者の入国を許可する」
「な・・・・んだ?」
胸の中から溢れだすような温かさに、ヨーデルは目を瞠って自分の胸に当てられたユウの手を見つめる。
それはどこか、遠い記憶の彼方に置き忘れて来たかのような、懐かしい温かさ。
「さて、と。じゃ、行こっか」
ニッと白い歯を見せると、ユウは何事も無かったかのように、結界の中へと姿を消した。
「おい、待てって!」
ヨーデルも慌ててその後を追う。
「僕、いいこと思いついちゃったんだよねー」
見た事も無い景色に戸惑いながら歩くヨーデルに構わず、ユウは飛び切りの笑顔を見せて言った。
「ヨーデルさ、キャロルちゃんの家庭教師にならない?」
「・・・・はぁっ?!」
「だってほら、ヨーデルって王子でしょ?あの国事情が複雑だったし、ヨーデルなら外の世界の事も色々知ってると思うし。頭も良さそうだから、ちょうどいいと思うんだ、チェルシー女王がキャロルちゃんの家庭教師探してたから」
「待て待て待て待てっ!誰だそのキャロルちゃんてのは?チェルシー女王ってのは、お前のお袋さんか?」
「やだなぁ、違うよ。チェルシー女王は、ロマンス王国の女王だよ。それで、キャロルちゃんは、ロマンス王国の第一王女で、僕の婚約者。ね?ヨーデルは今無職なんだから、丁度よくない?」
「なにがどう丁度いいんだよっ!だいたいなんだ、ロマンス王国ってのは?!お前の国はギャグ王国じゃ…」
「だーかーらー!ロマンス王国は僕の婚約者のキャロルちゃんがいる国だってば。このまままっすぐ、ロマンス王国に行くからね」
「・・・・あー、なんか頭痛ぇ・・・・」
弾むような足取りで先を歩くユウの背を見ながら、ヨーデルは溜め息を吐いて軽く頭を振った。
そこは、今までヨーデルが生きて来た世界とはまるで違う、平和を絵に描いたような穏やかな国。
ヨーデルが手に入れようとして叶わなかった、思い描いていた理想の国。
(こんなとこが、あったとはな・・・・)
そっと腰の剣に手で触れながら、ヨーデルは目を閉じた。
(オディール、お前にも見せてやりたかったよ、こんな国を・・・・)
「ちょっと、ヨーデルっ!何ボサッとしてるのさっ!」
「うるせーな、今行くって」
剣から手を離すと、ヨーデルは子供のように頬を膨らませて自分を待つユウの元へと向かったのだった。
※※※※※※※※※※
ヨーデル様は、ご自身の過去を誰にもお話にならないのです。
お辛い過去ですから、お話になりたくないのも無理は無いのでしょうけれども。
ですから、ヨーデル様の過去をご存じなのは、ロマンス王国のチェルシー女王とギャグ王国のユウ王子だけなのです。
え?
何故私が知っているか、ですって?
そういえば・・・・何故でしょうねぇ?おほほほほ。
あらあら、もうこんな時間。
それでは、今回はここまでにいたしましょうね。
それでは、ごきげんよう。
また、いらしてくださいね?
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