第7話 ギャグ王国:とあるメイドのお話 2/2

(ユウ様・・・・?)


「んっ・・・・あ、あれ?ミャー?・・・・ミャーだっ!おはよう、ミャーっ!」

「わっ!」


ミーシャの気配に気づいたのか、目を覚ましたユウがミーシャの姿を認識するなり、両腕を広げてミーシャの体を抱きしめる。


「ミャーは今日も可愛いね」


これまた、毎朝のルーティーンのようなもの。

ユウは毎朝、起こしに来たミーシャを抱きしめて、必ずなにか一言囁くのだ。

馴れない人が聞いたら思わず キュンッ としてしまうような言葉を。


「はいはいありがとうございます。とりあえず離してもらえますかね」


棒読みで答えると、ミーシャはユウが解放してくれるのを待って立ち上がる。


「何度も申し上げていますけど、お休みになる時はベッドの上で・・・・」

「うん、わかってるんだけど、ね。ああはっ、ごめんね、ミャー」


いつものように能天気に笑うユウだが、やはり頬には涙の跡が残っている。


「悪い夢でも見たのですか?」

「えっ?」

「早く顔を洗ってらした方がよろしいですよ。泣いていたのが丸わかりです」

「ええっ?!」


慌てたように顔を拭うユウが、ふと手に持っていたものに気付くと、じっと見つめた後にミーシャに差し出した。


「ミャー、これあげる」

「は?」


思わず受け取って、ミーシャは目を瞠った。

それは、あまり高価な物とは縁が無いミーシャでも分かるような、高級そうなブレスレット。


「このようなものいただけませんっ!」

「じゃあ、預かっててくれないかな」


押し返そうとするミーシャを、ユウは真っ直ぐに見つめる。


「これ見ると僕、泣いちゃうから。だから、僕が泣かなくなるようになるまで、預かっててくれないかな?ダメ?」

「・・・・そういう事でしたら・・・・」


(この顔は、ずるいわよね・・・・これじゃあ誰も断れないじゃない)


渋々とミーシャが頷いたとたん。


「じゃ、失くさないようにちゃんと嵌めてて。あ、僕が嵌めてあげるね。あ~、やっぱり似合う、すごく似合ってるよ、ミャー!」


あれよあれよという間に、ブレスレットはミーシャの左腕に収まっていた。


「それじゃ僕、支度してすぐ食堂に向かうから。・・・・それともミャー、僕の着替え、手伝ってくれる?」

「手伝いません。ご自身でお願いします」

「あはは~、冗談だよ」


(冗談に聞こえないから怖いんだっつーのっ!このセクハラ兄弟めっ!)


「では、失礼いたします」


努めて冷静を装ってユウに頭を下げ、ミーシャはユウの私室を後にした。

左腕のブレスレットが、少しだけ重い。

目ざといメイド長に聞かれたら、なんと答えればよいものか。

まぁ、事実をありのままに答えるしか無いのだろうけれども。


「はぁ・・・・あのセクハラ兄貴はもう、食堂へ向かったかしらね」

「セクハラ兄貴って、俺のこと?」

「ぎゃっ!」


後ろから突然出て来た陰に行く手を阻まれ、気付くとミーシャはカークの壁ドン状態。


「だから、ごめんて。仕方ないだろ、スーちゃんの夢見てたんだから」

「だからって、毎朝毎朝スウィーティー様と私を間違えないでいただけますかねっ!」

「な~んかミャーって、そーゆーとこ似てるんだよねぇ、スーちゃんと。ほんと、変わらないなぁ、ミャーは」


キリリとした目に甘さを滲ませて、カークは顔を近づけると、ミーシャの耳元でそっと囁く。


「だからずっと、ミャーはそのままでいて」

「カーク様はもう少し距離を保ってくださいませ」

「ミャーは特別だからいいの」


他人には滅多に見せないはにかんだ顔で、カークはミーシャに告げる。


「ミャーは俺とユウの友達だから」


スッを体を離して何事も無かったかのように食堂へと向かうカークの後ろ姿に、ミーシャは小さな息を吐いて天を仰いだ。


「友達、かぁ」


懐かしい思い出が胸に蘇り、温かい気持ちに満たされて向かったカークの私室。

そこでミーシャは思わず叫んだ。


「友達だってんなら、少しは部屋を綺麗にしとけーっ!」


そして。

デスク周りに散らばっている、スウィーティーへのラブレターの失敗作と思われるたくさんの紙くずを拾い始めたのだった。



※※※※※※※※※※


ミーシャと王子たちは、ミーシャがメイドとして王室に入った2年後くらいに出会ったようでしてね。

その頃から、この3人は『友達』という関係性でもあるようで、ミーシャを『ミャー』と呼んでいるのは、この2人の王子だけなのです。

まぁ、人目があるところではあくまで、王子とメイド、の関係を保ってはいるようですけれど。

え?

どんな出会いだったのか、ですって?

そうですわね、少し長くなりそうですので、それはまた別の機会に。

ふふふ、是非、聞きにいらしてくださいね?

ではまた。ごきげんよう。

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