第10話 そうそう、この感じ!やっぱヤバイの来たー!
大通りの人混みから、物陰から、一斉に現れた男たちがわたしに迫る。
ハディスとのやり取りにワタワタしていた自分がうらめしい……。
「セレネ嬢。僕の後ろに隠れて……え!」
魔力を両足に巡らせてロケットスタートを切ったわたしは、大通りに向かって走り出す。
破落戸たちが慌てて剣や棒を振り回すけど、軽快に飛んで撥ねて掻い潜る。令嬢たちからの嫌がらせ攻撃をかわし続けている技術が役に立ちすぎて涙が出そうだ。
狙いを定めていたわたしにつられた破落戸たちは門前から離れ、わたしを追い始める。
「よかった、やっぱりわたし狙いね!馭者の
「ちょっと!セレネ嬢!」
一瞬、剣を持った破落戸と切り結んでいるハディスが目に入ったけど、わたしが離れれば破落戸たちもこちらへ追って来るだろう。
「ちょっと逃げて隠れるから心配しないで!」
叫びながら駆けだすと、思った通り破落戸たちは皆わたしを追って走り出した。
「待ちやがれ!」
「このアマ!」
怒声を放つ男たちを引き連れながら大通りをしばらく駆けたわたしだけれど、道行く人たちの驚く顔が目に入る。
えぇぇ……これって背後の下品な破落戸とセットで見られているのね。やだわー!
更に全身に魔力を巡らせて加速すると、あっと言う間に男たちを突き放すことに成功した。
けれど、念のため建物の影に身を潜めて様子を見ていると、思った通り破落戸たちは「どこに消えやがった!」と怒声をあげながらまだ周囲をうろついている。
「しばらく目につかないところに行かなきゃねー」
呑気に呟きながら建物の影の薄暗い小道を進んで行く。左右にあるのは倉庫なのか、窓は高いところにしかない。ちょうど目の前に木箱が積み重ねられていたので、すとんと腰を下ろす。
「
いや、声は良いんだよ。声は。
心地好い響きのテノールに、いやな記憶を刺激されつつ、木箱の影となっている小道の奥へ視線を巡らせると、そこには思った通りのアイスブルーの瞳が二つ並んでいた。
「またあなたなの!?」
「貴女の脳裏に刻んでいただけた様で光栄です」
薄く笑みを浮かべながら、右手を胸に当てる姿はどこか優雅だ。
「なんでここにいるのよ。もしかして、あなたがさっきのおじさん達をけしかけたの?」
「心外ですね。あんな素人と一緒にされては困ります」
何を馬鹿なことをと、溜め息をつきながら一括りにして腰まで垂らした白銀の髪を揺らして首を振る。本日の衣装は上下身体にピッタリとした黒だけれど、覆面はしていない。怪しさは若干軽減されている……か?
「あれから連日、貴女の姿を追っていますよ」
背筋が粟立つ。
そうそう、この感じ!やっぱヤバイの来たー!
本能的に感じた危機感に従い、魔力を巡らせて、また大通りに向かってダッシュする。目の前の男にわたしの本能がうるさいくらいの警鐘を鳴らしている。この男は何かヤバい……と。だから一刻も早くこの場を離れるべく、来た道を戻る。
早く大通りへ!!
「見付けたぞ!」
大通りから小道を覗いた
正面の破落戸、背後のナルシスト暗殺者、ならば選ぶのは決まっている。
「ちゃんとよけなさいよ!」
さらに加速し、飛び上がって左手の壁を思いきり蹴とばして破落戸の頭の上を飛び越える。
けれど飛び越えた先にすでに駆け寄っていた破落戸が2人。
「大人しくしやがれ!」
「うそでしょっ」
着地を狙ってロングソードが振り下ろされるのを見上げ、思わず声を上げる。
反射的に避けようとしたわたしは、先に着地した左足に力と魔力を集中させて、不安定な体勢ながらも脇に飛びのいた。剣が地面を叩いた音を聞きながら、勢いのついたままゴロゴロと地面を転がる。足首を捻ったらしく、不格好な回避姿になってしまった。
痛みに耐えつつ、状況を確認するため素早く顔を上げると、状況は一変していた。
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