元勇者、極東の島国を回る
いちのさつき
海蛇の島・川蛇の島
第1話 星天諸島の端に着く
星天諸島と言っても、色んな島があるとか、中心地が遠いとか、そんな感じで、1番端にある島、海蛇の島で止まる。俺より小さい鬼のおじさんがそう言ってた。
「ああ? 知り合いの話を聞いて、こっちに来た? 相当な物好きだな。おめえ」
船に乗ってる奴、あんまいなかったしな。星天諸島出身ぐらいしか乗らないらしい。まあ言語習得教室で「そらの言葉(星天諸島の言語名)」学んでるの、俺以外だと、ベイライさんとシエラゴさんぐらいだったしな。物好きだと言われても、しょうがねえか。
「あともうちっとで着くぞ」
船に乗ってから、1週間ぐらい。やっと着いた。日差しが強いし、暑いし。汗が酷いな。
「海蛇の島だ。冷たい飲み物でも取って、体を冷やせ」
「助言、ありがとうございます」
本当にその通りだと思う。体を冷やさねえと、やってけねー……。ベイライさん達から貰ったひんやりとした冷たい布があるお陰でどうにか生きてける。
「なんだ。そういうの持ってたんか」
「はい。友人達から貰いました」
「友人か。良いねぇ。あの時を思い出す」
すっげえ懐かしそうに言ってるな。おじさん。
「へえ。思い出ですか」
「ああ。どれだけ強いのかを競い合った」
絶対喧嘩とかそっちだろうな。おじさんの体、所々傷あるし。
「あの時は若かった。やんちゃばかりして、よく……に叱られてた」
上手く聞き取れなかったけど、誰かに叱られてたのは分かった。どんどん島に近付いてるな。海の色、すげえ。こんな青い色、初めて見た。なんていうか。サファイアとか青系の宝石を溶かした感じ、するんだよな。言ったらマーリンが大爆笑するだろうから、言わねえけど。
「綺麗だろ」
「はい」
「他の南の海はもっと違う色だとよ。おりゃ、見たことねえけどさ」
そう言えば、俺も綺麗な海の色がうんぬんは聞いたことあっても、見たことはなかったんだよな。そもそも星天諸島とルートがだいぶ変わっちまうから、寄る予定なんて一切なかったし。
「俺もです」
「シュンガンからじゃ、ちと遠いからな。この歳じゃ、もう遠くには行けねえ。お前さんを見ると、羨ましく思うわ。若いってだけでええ」
先生も似たようなこと、言ってたな。若いってだけである意味特権なのか。体力もあって、気力とやらが十分だから……なんだろうな。きっと。あ。建物見えてきた。白い建物が多めか。濃いオレンジ色の屋根がやたらと多くね?
「あれが海蛇の島だ。すぐ近くに川蛇の島があってな。干潮の時なら、船使わずに、歩いて行けるぞ」
「え!?」
「本当だ。ちびっこでも楽々行ける距離だからな」
そんなに近いのか。行ってみよう。あ。止まった。
「着いたな。坊や。じゃあな」
うっわ。おじさん、飛び降りやがった。あの少ない荷物だからとか色々と理由は付けられるけど、身体能力が高いのが1番有力っぽいな。この荷物だし、普通に降りて行こう。
「そこのお前! 両替した方がええぞ!」
忘れてた。それしとかねえと!
「お願いします!」
「ほい!」
危なかったー……。困った時は物々交換でも問題ないって話だし、暫くはこれでどうにかなるか。さて。一歩踏み出すか!
「あっつ!」
白い土で固めた船着き場が熱い! やっぱ太陽の光が当たってるからだろうな。どっかで飲めるとこ、ねえかな。白い家が集まってるとこなら、あるよな。そっちに行こう。濃いオレンジの屋根、小さいのが積み重なって出来た奴なのか。派手な赤い花とか、紫の花とか、いかにも想像してた南の島って感じする。向こうに白い砂浜と鮮やかな青い海が見えるし。
「よお。そこの赤毛の兄さん」
左から声かけられたな。普通の一軒家かと思ったら、店の看板出してる。暗い赤色の日傘の下に髭ぼさぼさの爺さんが木の椅子に座ってるな。羽織るのか、羽織らないのか、どっちかにして欲しい。すっげえ中途半端。
「はい」
「ほれ」
うわ。いきなり物投げた。瓶だな。黄色の液体。小さい泡があるってことは炭酸か?
「飲みながら宿に行っとき」
そうだ。お金出さねえと。あと宿のこと、聞かねえと。
「金はいらん。使えん果物で作っただけだしな」
なるほど。農家の有効活用って奴か。出せない小さいやつを捨てるのはもったいねえしな。
「そうなんですね。あの。すみません」
「なんだね」
「その宿の行き方についてですが」
「ん。これに従ってりゃ、着く」
あ。紙に書いてるのか。
「ほい開けたからな。行った行った」
「ありがたくいただきます」
コルク栓を取ってくれたし、飲みながら歩こう。冷たい。こういう時にありがてー。しゅわしゅわが凄い! すっぱい! 生き返るってこういうことだろうな。えーっと。紙を見てると、こっちか。家の集まりを抜けた先に畑か。どういった感じかはさっぱりだな。麦とか穀物って感じじゃなさそうなんだよな。ガサガサ聞こえ。
「シィー」
小さい子2人が畑の中を使ってかくれんぼか。遊びを邪魔するわけにはいかねえもんな。スルーしておこう。まっすぐ行っとけば、着くと。あっちに木の山があるな。てか。あの位置って、さっきの爺さんのとこか。
「キャー!」
後ろというか、さっきの子、見つかったのか。あ。抜かされた。元気があるな。こんなに暑いってのに。ここだよな。かなり広いし、看板の字と一致してるし。緑いっぱいだな。庭が入り口の前にあるって感じか。たてがみがある猫に似た像があるな。目……動いた気が。気のせいだよな?
「お。いらっしゃい」
背後から!? 気配全然なかったんだけど!?
「おっと。ただ者じゃない動きしてるね」
にこにこと笑う1つに纏めてる茶髪の女性。種族とかはまあ毎回こうだろうなって思うけど、どっちなんだろ。ほとんどは同じ種族同士で結婚らしいけど、たまに違う種族で結婚してる話はある。この人もそうなんだろ。ここまで分かりづらい人は初めて見たけど。微妙に耳尖ってるし、額にものすごく小さい角あるし。
「あの」
いやそれよりも恰好、どうにかしてくれねえかな!? 帯で羽織ってるの固定してるつもりだろうけど、はだけちゃってるよな!?
「きちんと羽織ってください」
「ん。なーに言ってるの。ここだと普通だ。それにこれは見せても問題ねえ。いつでも海に潜れるようにしとるだけ」
いやそうだとしても、見てる側にとっちゃ。
「とりあえず入りなよ」
俺のこと、良いおもちゃだと思ってねえか? 気のせいだよな? ま。とにかく入るか。
「おい。そこ。何してんだ。うちの盗もうとすんじゃねえ」
あの小さい子、オレンジ色の果物を盗もうとしてるのか。女の人、長細い棒で軽く叩いたな。
「いてっ」
「他人の物を盗んじゃいけねえんだぞ。欲しいなら、直接、私に言えっての。あ。逃げた」
逃げ足早い。そこまで怖がる必要もねえと思うんだけどな。何でだろ。
「まあ私の前の職、危ないことしてたもんだからな。ちびっこどもは大体ビビるし、変な方に話が膨らんでくもんさ」
「危ないってどういった仕事をしてたんですか」
そりゃ気配ない状態で近づく時点で、ただ者じゃねえし。危ないってことはそういうことだろ。死ぬ可能性が高い仕事だ。国によるから、どんなことかはさっぱりだけどよ。
「敵の中心地に忍び込んで、情報を集める。ま。諜報員のようなものさ。今は唯のしがない宿の主さ」
何で宿を営むことになったとか、突っ込みてえとこはあるけど、やめておこう。
「暫くは泊まってくんだろ。案内するよ。カオルって言うんだ。よろしく」
「エリアル・アンバーです。よろしくお願いします」
庭が立派だな。手入れしてるっての分かる。壺とか平たい皿っぽいのとか。歩くとこ、ちゃんとあるし。
「ほい。ここが入り口だよ」
硝子の戸だな。ガラガラ鳴ってる。靴、置いてるな。
「土足厳禁だからな。靴はそっちに置いときな。客専用の棚だからよ」
そういうとこなのか。ここにしとくか。靴履かないまま歩くのって何か妙な感じする。
「おめえ。星天の者じゃねえな」
そわそわしてるの、バレるよな。てか。この辺りだと、靴脱ぐのが当たり前なのか。へー。
「どっから来た」
何処から来たのかってことでいいのか? ちょっと聞きづらいんだよな。
「出身はヒューロです」
「ヒューロ? 聞いたことねえな」
だろうな。途中から偉い人じゃねえと、知らねえ国だし。
「グスター大陸の西の方からです」
「西!?」
びっくりするよな。結構遠いとこから来たもんだなって俺も思う。
「ハイフォンシーの格好じゃねえと思ったら。うん。キテレツなのはそれが理由か。分かった」
キテレツの意味、分からねえけど、変だってのは分かった。もうちょっとシュンガンで買い物しとけばよかったか?
「ここ。お前が寝る部屋な。夕食になったら、呼ぶから、それまでは休んどけ。長旅で疲れてるだろ」
引き戸を開けて入ろう。物入れっぽいのに、寝床っぽいのあるな。これ。敷く感じか。右の方に水浴びとかそういうのがある感じか。床。変わってるな。干した草を編んだ感じだ。意外に痛くねえんだよな。
「はー」
荷物を置いて、しばらく横になっとこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます