第37話 城塞②

「ロキ……、ところでここから先はどう進むべきだと思う? 何か良いアイデアはあるか?」


 私はロキに訊ねた。

 ここから先はどう進めれば良いかだなんて、そう簡単に決め付けることは叶わない。ならば、分かる人間に少しでも指示を仰いでおく方が良い。使えない人間だらけで、自分が一番使い勝手が良いってこともなきにしもあらずだが。


「そうだね……、先ずは物事を整理した方が良いか。私達が向かうべき場所は、この城の主である白き女神が居る場所だ。誘き寄せても構わないだろうけれど、そうも簡単に物事が上手く進むことは、まあ有り得ないだろうね。必ずといって良いぐらい、何か駄目なことが起こるに決まっている」

「まるで今失敗した様子を見てきたかのような言い方だな。まさか、時間遡行の能力でも持ち合わせているのか?」

「まさか。そんなことが出来ているのなら、私はとっくにここのリーダーになっていますよ」


 冗談を言うのも得意になってきたようで、それは悪くないことだった。

 やはりこういうのは張り合いがないと困る――誰が困るのかという話になるが、そりゃあ受け答えをする私達だ。どんな言葉を投げたとしても、無機質な返答しか返ってこないのならば、それはそれで問題だと思う。

 本当にその物事について、本気で考えているのか――ということを、きちんと吟味していかねばならないからだ。

 ただ適当にいなしていただけでは、何の意味もない。


「ロキ。お前は本当に何も考えていない、っていうのか? ここから先のことを何一つ、本当に?」

「嘘を言って誰が得をするというんですか、イズンさん。いずれにせよ、私はここから先のことは門外漢ですよ。何も分かっていない以上、慎重に進むしかない。それぐらいは剣士である君ならば分かってくれているものとばかり思っていたがね……」

「お生憎様。私はそこまで剣士としての経験はないものでね」


 ともあれ。

 冗談を言い過ぎた、というのは紛れもない事実だろう。いずれにせよ、私達はこれから白き女神の居る場所を探し当てて、そこを目指さなくてはならない。しかし目指すためには、試練が多過ぎる。

 しかし、私はただ復讐をしたいだけなのに、どうしてこんな色々と巻き込まれなくてはならないのか――甚だ疑問だ。どうしてこんなことになってしまったのか、自らの行動を振り返らなくてはなるまい。

 ただし、確実に一歩ずつ前に進んでいることもまた事実だ――白き女神、そいつが私の復讐相手、その一人であることは、紛れもない事実なのだから。

 私達が辿り着いたのは、長い廊下だった。廊下の両側には何もなく、ただひたすら長い廊下が続いている。


「……確かこんなに広いはずがないのだが」

「いや、これはきっと……魔法を使っているね。しかも古い魔法だにゃー」


 言ったのはフレイヤだった。

 フレイヤはマナの流れを読むことが出来る。それも新しい魔法に使われる物ではなく、古い魔法に使われるそれだ。だから今回の調査隊にうってつけな能力だった訳だが、ここに来てまだ能力を発揮することになろうとは。生きて帰ることが出来れば、何かしら追加で褒美をあげた方が良いんじゃないか。

 フレイヤの言葉を聞いて、ロキは首を傾げる。


「フレイヤ。それは本当か?」

「嘘を吐く余裕なんて、ないはずだにゃー。いずれにせよ、私達はここから先に進まないといけにゃいけれど、問題はこれが魔法の行使された空間だということだにゃー」

「魔法が……行使された空間だと? つまり、その理屈からいけば、この空間に侵入者がやってくることは最初から分かっていて――」

「……いや、それはないだろうね」


 ロキは私の言う言葉を前にして、否定する。


「何故だ? ロキ、何故そう判断したのか教えてもらおうか」

「人の気配がない。あまりにも……あまりにも静かだとは思わないか?」


 確かに、それは思っていた。

 城に入ってからずっと思っていた違和感。それは紛れもなく人の気配のなさだ。これだけだだっ広い空間であったなら、何処かに人の気配があってもおかしくないし、ラフティアという一つの街を治める人間の城であるならば、猶更警備が強化されていないとおかしい。

 にもかかわらず、先程から人の気配を全く感じなかった。


「……普通、これは罠だと考えるが、ロキは違うという判断で良いのか?」

「何回言っても答えは変わらないわよ、イズンちゃん」

「ウルは黙っていてくれ。それとも、何か違う解釈でも思いついたか? だったら発言してくれても構わないが」

「冷たいわねえ……、別にそこまで仰々しい物でもないけれど、確かに人の気配がしないのは不気味だし気になるポイントではあるけれど――そもそもの大前提として、ここが白き女神が住まう城であることは紛れもない事実のはずよね?」

「それがどうかしたか?」

「いや……、思ったのよね。どうして疫病が蔓延しているのに白き女神は助けようとしないのか? 金持ちだけを助けようとしているならば、少なくとも姿を見せようとしてもおかしくないでしょう? けれど、私が調べた限りだとどんなにお金を積んだって、白き女神は現れようともしないで、城の何処かで清めた水を渡すだけに過ぎないらしいわ」


 うん?

 だとしたら、それって話がおかしくならないか?

 白き女神が助けているのは、金持ちだけだった。弱い人間を助けようとせず、権力を持っている、影響力のある人間だけを助けようとしていた――だからロキはレジスタンスを結成し、白き女神を亡き者にしようとしていた。それが話の大前提だったはずだ。

 しかしウルの話によると――何処でそれを調べてきたのかは、一先ず忘れることとして――金持ちですら、白き女神は会おうとしなかったのだ。

 だとすれば、一つの仮説が生まれる。


「まさか、白き女神は――」

「――とっくにこのラフティアから姿を消している、そう言いたいのか?」

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