海峡を渡る

【い-14】文学フリマ京都_筑紫榛名

(一)

 彼は何を祈ったのだろうか。

 彼と一緒に両手を合わせて、私はそう思った。

 神社の社殿から離れて、参道を歩きながら、私は「ねえ……。なんてお祈りしたの?」と彼に聞いてみた。

「えっ……。そりゃ、その……。健康でありますように、って……」

 彼はそう答えた。明らかにうろたえていた。

「本当に?」

 私は彼の顔を覗き込んだ。

「ほ、本当だよ!」

 そう言って彼は顔を赤らめて、私から目をそらした。きっと私には言いにくいことだったのだろう。

「そういうお前はどうだったんだよ」

「えっ?」

 私が何を祈ったかなんて、恥ずかしくて言えない……。だって実際には祈ってなんかおらず、あなたが何をお祈りしていたのかとしか考えていなかったのですもの。

 だから私もそっぽを向いて、「健康でありますように、って……」と答えた。


(続く)

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