第4話

 任務があって、ちょっと遅れた。

 彼女。同じ席。窓際。

 隣に座る。


「遅かったね」


 一言だけ。


 それだけ。


「ええ。少し」


 それでも、嬉しかった。

 彼女の心のなかに、まだ、ほんの少しだけ。自分は残っているのかもしれない。


「寝てました」


 嘘。

 任務だった。そこそこのやつ。


「うそ」


「え。へへ」


「へへ、じゃねぇよ」


 早速きたラーメンを、彼女が奪う。

 食べな。好きなだけ。あなたのために大盛りを注文してるんだから。


 彼女の後任に、なったのは、自分。

 何かの任務があって、彼女含め、多くの人間の記憶が消えた。そして、彼女は、毎日の記憶もないまま、毎日、このラーメン屋に来る。


 足取りは追えない。彼女は店のドアを開けて出ていくと、消える。まるで、別な場所に消えていくように。


 自分は、彼女のことを覚えている。部屋にある彼女の私物も、そのまま残していた。ハンバーグが好きなので、よく彼女にはハンバーグを作ってあげていた。


 今度、作って持ってこようか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る