「本当の回転寿司」

 俺は、どこにでも居るサラリーマン。

 昼休みになり、会社の外で昼食をしようと思っていたら、どこの店も混んでいた。

 それで、空いている店はないかと探していると、たまたま目についた『回転寿司』という暖簾の店を見つけた。


「回転寿司か……」


 他に店は空いてなさそうだし、今日の昼は回転寿司にするか……。

 そう思い、店の中に入った。

 しかし、入ってみたら、この店……どこか変だ……。

 いや、かなり変だ。


 何故なら、回転寿司なのに、寿司を乗せて回すコンベアがない。

 つけ場(調理場)があって、その前にカウンター席があり、そして、テーブル席があるだけ。

 どこにも、寿司を流すコンベアが見当たらない。

 これでは、ただの『回らない方の寿司屋』ではないか。


 更に言うと、客も俺しか居ない。

 ヤバイ……。

 空いていたから、この店に入ったが、よく考えたら人が居ない店って、つまりは……そういうことだよな……。

 カウンター席に座った俺は頭を抱えた。

 どーしよ、今からでも、立ち去るか……?


「へい!お客さん!なに握りやしょう!!」


 つけ場に立つ店主らしき中年男性が威勢よく、注文を聞いてきた。

 店主はいかにも寿司職人という感じで割烹着を着ている。

 ……。

 しかし、まあ、せっかく入ったんだし、ちょっと高くなりそうだが、適当に頼んで食べて帰るか……。


「とりあえず、マグロで……」

「ヘイ!マグロ!!」

「あ、あと……。この店って、『回転寿司』なんですよね?」

「ヘイ!そうですが!!」

「それにしては、寿司を回す装置がないみたいなんですが……」


 俺がそう言うと、店主は笑った。


「アハハ!お客さん、うちはそんじょそこらの『回転寿司』とは違う『回転寿司』なんですよ!アハハ!!」


 なにがおかしいのか、店主は景気良く笑う。


「まあ、見てて下さい!本当の『回転寿司』を見せてあげますよ」


 本当の『回転寿司』?

 なんだそりゃあ?

 俺がそう思っていると、店主は桶の中のシャリを掴んだ。

 さすが、寿司職人。流れるような無駄のない手捌きで寿司を握っていく。

 あっという間に店主は寿司を握り終え、マグロを一貫、皿の上に乗せた。


「ヘイ!マグロお待ち!」


 俺の目の前に、色艶の良いマグロの寿司が置かれた。

 ……。

 店主の腕は凄いと言えば、凄いんだが……。

 これでは、ただの『回らない寿司屋』じゃないか……。

 これのどこが『回転寿司』なんだ?


 そう思った時だった。

 店主がニヤリと笑った。


「お客さん……これから、本当の『回転寿司』をお見せしやしょう」

「え?」


 店主はそう言って、マグロが乗った皿を両手で掴んだ。

 そして……。


「な、なにぃーーー!!?」


 俺は驚いた。

 店主はマグロが乗った皿を、両手で回転させた!!


 寿司が!


 寿司が!


 寿司が本当に回転している!?


「うわぁああーーー!!!」


 俺は驚き、思わず声を上げた。

 寿司の皿がグルグルと、テーブルの上で高速回転している!

 回転の勢いは落ちることはなく、逆に勢いを増す!

 バカな!一体、これはどういうことなんだ!?


「ハッ!?」


 さらに俺は自分の目を疑った。


 寿司が!!


 寿司が!!


 寿司が三つに増えた!?


「なんだってぇーーー!!?」


 俺は大きな声を上げた。

 そんなバカな!寿司が三つに増えるなんて……いや、違う!!

 あまりにも寿司の回転が凄すぎて、寿司の皿が三つに増えたように見えているんだ!!

 つまり、寿司の皿は一つのまま!残る二つは残像だ!!


「お客さん……驚くのは、まだ早いですぜ……」

「なにぃ!?」


 まだ、まだなにかあると言うのか!?

 ムッ!

 なんか、焦げ臭い気が……。

 ハッ!

 俺は目を疑った。

 高速回転する寿司から、煙が出ている!!

 そして……。


「なんだとぉーー!!!」


 俺はビビった。本気でビビった。


 寿司が!!!


 寿司が!!!


 寿司が!!!


 『寿司が燃えている!!?』


「そんなバカなぁーーー!!!」


 俺は自分の目を疑った。

 寿司が回転しながら、火を放っている!!

 寿司が火に包まれている!?

 そんなバカな!!


「ハッ!」


 俺はテーブルを見て、気づいた。


「そうか!寿司が燃えているのではなく、テーブルが燃えているのか!?あまりにも超高速で回転する寿司の皿により、摩擦熱が発生し、それにより木製テーブルに火がついて、まるで寿司が燃えているように見えているというのか!!?」


 凄い!

 凄すぎる!!

 これが!!

 これが、本当の『回転寿司』だと言うのか!!?

 今まで、俺が食べてきた『回転寿司』はすべて紛い物!!


 本当の『回転寿司』とは、超高速で寿司そのものが回転する寿司のことだったのか!!?


 俺はかってないほどの衝撃を受けた。


 しばらくすると、寿司の回転が止まった。

 皿の上の寿司は回転のせいで形がぐちゃぐちゃになり、しかも、火で寿司が燃えたんで焦げている。

 もはや、寿司ではなく、ただの黒い物体と化していた。

 店主は笑みを浮かべる。


「どうでしたか、お客さん。これが本当の『回転寿司』でありやす……」

「食えるか、こんなもん」


 俺は席を立った。




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