10ー11 ナギサイド

「はあ、はあ、何とか、なったわ~」


 激しい戦いだった。さすがのカチュアでも、息を切らしている。


「アイラは!」

「あの凶暴性は感じなくなったわ~」

「よかった」

「でも、わけを聞かないと」

「わけって?」

「ただ、暴れていたわけじゃないわ~。マリンちゃんに物凄く殺意を感じていたのよ~」

「それって……」

「カチュア! 危ない!」


 カチュアが振り向くと、そこには狼が。投げ斧を構えるものの、奴の爪がカチュアの右肩を切り裂いた。


「うう……」


 ダメージを受けつつも、カチュアは投げ斧で狼の体を真っ二つに斬り裂いた。カチュアは右肩を押さえながら、膝を地面に付けた。


 カチュアが傷を負ったところを初めて見た。明らかに、いつものカチュアではない。あんな至近距離まで、敵の気配に気づかなかったなんて。傷を負いながら、返り討ちにはしたが。


「カチュアさん! 今すぐ、手当を!」


 エドナは治癒術を使って、カチュアの傷を治していく。咄嗟に治癒の魔術を使ったが、カチュアは蒼い炎を纏っている間だけかは、分からないが、魔術を打ち消してしまうか心配だ。しかし、治癒の光がカチュアに触れても何の変化はなかった。治癒は問題なく使えるようだ。


 あれ?


 だけど、何か違和感がある。エドナは治癒術を使うんだが、それに何故か、違和感を感じる。エドナが治癒術が得意んだから、使うのは当然のはずなのに。何故、それに違和感を感じるのかな?


「カチュアが傷を負うなんて……」

「カチュアさん」


ルナが治癒中のカチュアの前に腰を低くし。


「カチュアさん。あの蒼い炎ですが、ヴァルキュリア族は負を嫌う亜種です。もし、蒼い炎にリスクがあるとするなら、ヴァルキュリ族が嫌う負の感情、もしくは、エネルギーが関係します。そう考えると、蒼い炎で燃やしたものは、負のエネルギーに変え、カチュアさんが吸収してしまうのではないでしょうか。あくまで、ルナの仮説ですが」


 ルナの話を聞いて。私はカチュアの口を借りて、ルナに問いかけた。


「私はナギだけど。話は聞いていた。それはつまり、カチュアには精神ダメージとして、反動を受けると、カチュアは……」

「はい。このまま、使い続けたら精神崩壊してしまいます。もしくは、アイラさんのような魔物化のような凶暴になるか」


 精神に反動か。そんなリスクが。でも、カチュアには、そんな素振りは見せなかった。今回よりも、力を使っていなかったからか? 


「誰が、試したわけじゃないですが、少なくっとも大きなリスクがあるのは確かです」

「よく、思ってみたら、蒼い炎を使ったら、悪い人の持つ感情をいつも以上に感じていたわ~。それも、気分が悪くなるほど。ルナちゃんの話を聞くまで、気にしていなかったわ~」


 ルナの仮説は強ち《あなが》間違えではないってことか。でも、今まで考えていないなんて、カチュアらしいな。鈍感にも程があるよ。


「これで大丈夫なんだよ」


 カチュアの右肩の傷が塞がった。


「よかったッス」

「え!? エドナさん! 何で魔術を!?」


 ユミルが驚いた顔をしていた。エドナが魔術を使っていることに驚いているみたいだけど。何でだ?


「何でって、あたしはこの魔道具で」


 エドナは、魔術を扱うのに、必要な、腕輪型の魔道具を付けているの右腕を差し出した。


 そう、あったはずだった。


「なくなっているんだよ。」


 そこに嵌めてあった、腕輪が無くなっていたのだ。あの戦いの中で壊れたのか。


 待てよ! そうなると、カチュアの治癒をする時には、腕輪型の魔道具は着けていなかったと言う事だよな? それって。


「いや! それよりも! さっき、魔術を使っていたよね? 何で?」


 そっか! 違和感の正体はこれか。そうだ、エドナは魔道具が壊れていたはずなのに、治癒術を使っていたんだ。


 魔術を使うには確か、魔道具を装備するか、勇能力を持つのかの、どちらかだ。確か、エドナは勇能力を持っていない。だから、魔術を扱うのはおかしなことだ。


「皆んな、どーしたの? そんなに驚いで~? エドナちゃんは魔道具がなくっても魔術使えるわよ~」


衝撃な真実。


「カチュアさん! 知っていたのですが?」

「ルナちゃんも、知っていたでしょ~?」

「それは……」

「あたし、魔道具なくっても、魔術使えていたんだ」


 当の本人は知らないご様子だ。


「取り敢えず、アイラさんを休ませないと」


 カチュアがアイラを持ち上げた。


「カチュアさん! アイラさんに触れたら」


 しかし、アイラに触れてもなんともなかった。以前、カチュアがアイラに触れたら拒絶反応を起こしたかのように、アイラは火傷をしたが、今は何ともなかった。


「何とも、ないようですね。どういうこと?」

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