4-回想 ルナサイド

 ルナの兄であるアルヴスは、あの日を栄に、笑わなくなりました。いいえ、笑顔を見せるけど、心の底から笑っていないのです。寧ろ、兄様の笑顔は恐怖にしか、感じられなかったのです。


 昔の兄は、よく笑っていた。表情だけでなく、心の中でも、笑っていた。




 ルナが五歳の頃。


 当時、母様が病気がちで、家の外から、出られるのが、難しい体だった。魔道研究院の父様は、家へ帰らることは少なかった。幼いルナのお世話は、主に兄様がやってくれました。兄様も幼いながらも、父様と同じ魔道研究員だったのです。


 そんなある日、ルナがならず者に、誘拐されそうになったことがあったんです。


 ならず者が、ルナに近づきそうに、なったところで、兄様が助けてくれました。


「ルナ! 大丈夫か?」

「だいじょうぶです。それよりも……にいさまは、だいじょうぶですか?」

「俺なら平気だ。敵も倒した」

「でも……」


 兄様は得意な火の魔術で、ならず者を倒しました。だけど、小さなルナでも、あの火の魔術は、明らかに人に、放ってはいけない火力だったことはわかっていました。


 ならず者は全身、真っ黒に焦げていました。


「やりすぎだよ。テキさん、まっくろになっていますよ」

「はっはっはっ! ……俺の実力では、手加減が出来なくって……。でも、ルナが無事なら、それでいいぜ」


 笑いながら、誤魔化しました。今思い返せば、わざと、かもしれません。


「にいさまが、つかまって、しまいますよ」

「はっはっはっ! その時は、その時だな」


 また、笑って、誤魔化ました。


 だけど、そんな兄様がルナは大好きだった。あの頃は楽しかったのです。




 だけど、ルナが六歳の頃。


 ルナたちの父は謎の死を遂げた。


「おとうさま……どうして?」


 泣き崩れるルナは、兄様の懐へ抱き着く。


「大丈夫だ。ルナはにいちゃんが守るよ」


 兄さまはルナに笑顔を見せた。


 だけど、当時のルナでも感じていた。いつもの笑顔だけど、兄さまの、あの笑顔は、心の底から笑っていなかった。


 そして、ただでさえ、病弱な母様は父様が亡くなられたショックで、さらに症状が悪化してしまいました。もう、何日か食事を取らなかった日もありました。




 その頃から、兄様は笑ったと、言うべき笑いをしなくなった。


 同時に、兄様はルナのところへ帰ってくる回数が少なくなってきた。たまに、帰ってきた日は、体がボロボロで、ご飯を食べる元気すら残っていなかったようで、すぐにベッドに横になってしまいます。母様も心配していました。


 ある日、何のきっかけかは、忘れましたが、ルナは悟ったりました。もしかして、兄様は、父の死の真相を探っているのではと。


 そう思い、ルナが十歳になってから、兄様を密かに探ることにしました。この年でルナは最年少で魔術研究員になったのです。


 母様に関しては、ルナが八歳になった頃、兄様は、あの悪帝を倒した八人の勇者の一人にして、現在、皇帝を支える八人の将、八騎将であるシグマ様に仕えるようになった。シグマ様が手配してくれた、お手伝いさんに母様の面倒を見てもらい、ルナは魔術の勉強を頑張っていたのです。シグマ様には感謝しきれません。


 魔術研究員になったルナは、魔術研究をしながら、兄様の動向を探っていました。


 探っているうちに、兄様は貴族の家柄関係の者や騎士願望の者には、あまりよく思われていなかったことを、知ってしまいました。


 理由は遺族の家柄ではないうえ、英雄の力という、勇能力を持ってないのもは関わらず、八騎将の側近になっていたから。


 実力さえあれば、家柄関係なく、出世できる帝国。力さえ、あれば、個々の実力もそうだか、身分、財力、兵器の所有。そう、力さえあれば。だけど、国を守る、将となれば、身分があっても勇能力がなければ即位ができない。もちろん、その側近も。そんな中で、まだ、歴史は浅いが、勇能力を持たない兄様は異例の出世を果たした。しかし、納得できないものが、多く存在していて、兄様は日々陰口を叩かれていた。そして、ルナが十二歳の時にシグマ様のもう一人の側近となったロゼッタさんも。


  


 そして、ルナが十三歳、現在。兄様は、アヴァルの街にしばらく、拠点を置くとのことで、ルナも付いて行きました。その街の宿を借りて、魔術研究をしながら、兄様の同行を探っていました。


 その際、コルネリア国内で、ヴァルダンの襲撃が起こった。ヴァルダンは蛮族と呼ばせている。しかし、襲撃してきた、ヴァルダンは強敵だった。その秘密は恐らく武器。まるで、生き物の亡骸で作られたような武器は、勇能力の持ち主ですら、手こずらせた。


 その武器のサンプルとして、魔術研究の拠点であるタウロの街に運ばれた。


 兄様は、その解析作業を手伝うため、タウロの街へ向かうことに。ルナも着いていくと言ったが。


「とにかく、俺が帰ってくるまでお前は留守番だ、いいな?」

「もう! 兄様たら!」


 断れてしまいました。兄様はルナを置いて、一人で行ってしまう。


 やはり、断れてしまった。兄様、


 ドーーーン!!!


 何の音?


「エドナちゃん、だいじょぶ?」

「いたた……、なんとか……」


 音がする方を見ると、立っている女性と、地面にお尻が付けているルナぐらいの小さな女の子の姿が。


 立っていた女性はら綺麗な蒼い髪をしていた。さらに、瞳の色も綺麗な蒼色だった。蒼い髪に蒼い瞳、それは、誰でも知っている、蒼炎伝説の英雄、女将軍のシェリアと同じ特徴を持つ綺麗な女性だった。


 本当にそういう人がいるのね。あ! 見とれている場合じゃなかった。


「大丈夫ですか?」


 駆けつけました。


 これが、ルナとおっぱ……じゃなかった! カチュアさん。そして、おっぱ……じゃなかった! エドナさんとの出会いだったのです。

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