子猫との日常
第11話 市役所
いつもの朝を迎え、洗濯や風呂掃除のお手伝いが終わり、
「茶羽、黒羽、今日はこれからお出かけするんだ、だからお勉強は帰ってきてからしような。」
「「おでかけ」」
そう言うとお気に入りのポシェットを取りに二階に走っていく二人。
階段を降りてくる音がして、リビングに戻って来るかと思ったら足音は玄関の方に向かっていた。
足音を聞きながら俺も玄関に向かう、玄関に着くと靴を履こうと四苦八苦している二人がいた。
俺は靴を履いてから二人の靴を履かせる、玄関の戸締りを確認するとガレージに向かい二人をシートに座らせてベルトを締める。
運転席に座って後ろを振り返り、
「今日行くところは騒いだり大きな声を出しちゃダメな所なんだ、だから静かに良い子に出来るか?」
「さうはいいこ」
「くうもいいこ」
「そうかじゃあ行くか。」
「「しゅっぱーつ」」
俺は微笑むと二人の掛け声に合わせて車を出す。
20分ほど走ると市役所のある市街地に入る、市街地と言っても地方の市だから、駅周辺でお店や雑居ビルが少し建っている程度である。
市役所のあるビルの地下駐車場に車を止めると、二人を降ろしロックをかける。
ショッピングセンターやスーパーは平面駐車場だったので、二人にとって建物の中にある駐車場は初めてで目をキラキラさせながらキョロキョロしていた。
「ほら迷子になるぞ。」
そう言うと二人の手を取りエレベーターホールに向かう。
エレベーターを降りると左に記帳台が並びその奥に出口がある、右に各窓口のカウンターが並んでいた。
10時くらいだったが『
「結構いるんだな。」
その列を見ながらそうつぶやくと、『案内』と書かれた腕章を付けた職員が茶羽と黒羽を見て声をかけてきた。
「お二人の登録ですか?それでしたらこちらの用紙に必要事項を記入の上、あちらの専用窓口で申請をお願いします。」
「はい、ありがとうございます。」
二枚づつ計四枚の紙を受け取ると記帳台に案内される。
そこには申請用紙の書き方見本が貼ってあった、それの通り必要項目を書いていると年齢と誕生月日の項目があった、二人の年齢と誕生月日なんてわからないぞ、と思い先ほどの案内の職員に聞くと、年齢が分からない場合は見た目で大体で構いませんという、いいのかそれでとか思った。
二人の見た目で5歳にして誕生月日は二人を拾った日にした、記入が終わると列の最後尾に並ぶ。
列を眺めると待っているのが暇なのか、ぐずってる子も居た。
茶羽と黒羽を見るとやはり暇なのか、空っぽのポシェットを開けては閉めるを繰り返していた、最初に良い子にしてなさいと言った事を二人なりに守っているのだろう。
俺が眺めているのに気づいたのか二人は俺の顔を見てくる、
「静かに良い子にしてて偉いな。」
と二人をなでると、嬉しそうに尻尾を振っていたが顔はドヤ顔だった、それを見て吹き出しそうになってしまい堪えるのに必死だった。
半分くらい進んだところで後ろを見るともう十組くらいが並んでいた、すぐ後ろに茶羽と黒羽より少し年上に見える猫人の女の子が居たが、退屈なのかぐずり始めた。
茶羽と黒羽はそれを見て女の子のそばに行って頭をなでて、
「ここはしずかにしていいこにしてないとだめなとこなの、だからいいこするの」
「くうもいいこだからしずかにまってる」
「私もいい子だもん、静かにできるもん」
そういうと女の子はすました顔になり静かになった、それを見た女の子の保護者だろう年配の女性が俺に声をかけてきた。
「うちの子がすいません、お二人は小さいのに静かにしてて偉いですね。」
「いえ、前もって静かに良い子にしないとだめな場所だって言っておいただけで。」
そこまで言うと俺の番になった、女性に軽くお辞儀をして窓口の職員に書類を手渡す。
「不備はありませんね、それでは次はあちらの階段を上がり二階の3番窓口でこちらを提出してください。」
職員は渡した書類四枚を確認すると、書類を返して来て次の窓口に行くように指示してくる。
茶羽と黒羽は先ほどの女の子に手を振りながら窓口を離れる、女の子も笑顔で手を振り返してきた。
言われた通り階段を上がり3番窓口を探すと、数組が並んでる窓口を見つけ、その列の最後尾に並ぶ。
窓口で書類を渡すといくつか質問されて、それに答えていく、その後紙を2枚渡されて、記入して福祉課の窓口に行くように言われる。
あちこちたらい回しにされるんだな、と苦笑しながら書類に記入して福祉課と書いてある窓口に向かう。
その後数か所の窓口で書類書きと二人の写真撮影をすると、最後に指定金額の印紙を購入して一階の戸籍課に行ってくださいと言われる。
戸籍課に行き印紙と書類を渡すと番号札を渡され、
「番号をお呼びしますので、呼ばれたら受け取り窓口にお越しください。」
と言われたので受け取り窓口の前にあるソファーで休みことにした。
茶羽と黒羽がトイレに行きたがるのでトイレに行く、戻るとき静かに良い子にしてた二人にご褒美をあげようと自販機で紙パックのリンゴジュースを買ってあげてまたソファーで待つ。
しばらく待っていると俺たちの番号が窓口にある機械に表示されて、窓口の職員が手をあげて番号を呼んでいた。
窓口に行き番号札を渡すと、
「この度は国籍取得と戸籍登録おめでとうございます、こちらがお二人の保険カードと住民カード、こちらが大空様の戸籍謄本とお二人の住民票になります。」
とカードを四枚と三枚の書類を出してきたので受け取ると、
「お名前や住所など記載内容にお間違いがないかの確認をお願いします。」
そう言われてすべてを確認する、カードの氏名等の表示は問題ない、謄本も住民票も問題なかった。
「間違いはないですね。」
「それでは本日の手続きはこれで完了となります、それから今後のお知らせについてはご自宅に郵送にてお送りさせていただきます、本日はおめでとうございます。」
職員はそう言うと立ち上がりお辞儀をしてきた。
これで終わったと思い窓口を離れエレベーターホールに向かおうとした、そこでふと時計を見るともうお昼をすぎていた。
「もうお昼か、茶羽、黒羽、お昼何処かで食べていくか。」
「「ごはん」」
そう言ったがこの辺で何か食べる場所が有るのかわからなかったので、入り口近くにいた案内の腕章をつけた職員に食事できるところはあるか聞く、すると
「建物の出口を出て右に行かれますと市役所敷地内に食事ができるお店がございます。」
と説明される。
茶羽と黒羽を見てそこ行こうか、と職員にお礼を言ってから出口に向かって歩き出す。
お店に着くとそこそこ席は埋まっていたが、すぐ席に案内してもらえた。
席につきメニューを受け取ると、メニューに紙が挟んであった、それを見ると『特別法案可決お祝いメニュー』と書かれていた、見ると猫人定食と犬人定食となってた、せっかくだからと猫人定食を三つ頼む。
しばらくして店員が持って来たのは焼き魚とサラダとご飯の定食で汁物の代わりにジュースが付いていた。
「なるほどな、猫人が好きそうなメニューだ、犬人だとお肉にでもなるのかな。」
そう呟きながら茶羽と黒羽の焼き魚の骨を取りほぐしてあげて「いただきます」と食べ始める。
茶羽と黒羽は最初勢いよく食べようとしていたが、俺が見るとはっと気づいたのか静かにゆっくりと食べ始めた。
食事を終えて家に帰ってきたら今度は洗濯が終わっているのを確認して、三人で洗濯物を畳み片付ける。
いつものお手伝いが終わると茶羽と黒羽は眠そうにしていたのでトイレに行かせてベットに寝かせる。
リビングに戻るともらってきた書類を見る、茶羽と黒羽の続柄は養子となっていた、それを見てなんかうれしくなってついニヤニヤしながらずっと眺めて居たい気になっていた。
書類を見てにやにやするを繰り返していたがしばらくたって落ち着いたころ情報収集のためパソコンの前に座る。
「法案可決に関する事以外に目新しいニュースはなさそうだな、掲示板の方はどうなんだろ。」
掲示板サイトを開き確認していくと、『犬人猫人の食事考察スレ』というのがたっていた。
見てみると、猫人に知らなくてネギを食べさせてしまったが大丈夫だった、猫人に牛乳は大丈夫だった、猫人にエビを食べさせたが問題なし、など色々な書き込みがあった。
読んでいくと体は人だから人と同じもので大丈夫なのでは?という意見が多くなっていた。
それを見ても何かあってからでは遅い、茶羽と黒羽に何かあったら駄目だと思い、食事はこれまで通りにしようと決めた。
過保護と言われてもいい茶羽と黒羽はもう俺の子なんだ、守ってあげて幸せにするって決めたんだ、そう考えているとスマホに着信があった、健治からだった。
「どうした?」
「法案可決して茶羽ちゃんと黒羽ちゃんどうしたかなって気になってな。」
「それなら、さっき役所で登録してきたぞ、茶羽と黒羽は今日から俺の子だ。」
「おぉ、さすが早いな、おめでとう、達也もパパになるのか。」
「おうよ、お前はそれだけのために電話してきたのか?」
「香織がすごい気にしててな、それで電話したんだ、それから土日でお前のとこに泊まりに行くからよろしくな。」
それだけ言うと健治は通話を切った。
「ちょ、まて、って相変わらず言うだけ言って切りやがる、まあ茶羽と黒羽も喜ぶだろうからいいか。」
スマホを置くと今度は市役所のホームページを開く、今日役所で入学前だから保育園や幼稚園がどうとか言われたのを思い出したからだ。
先日見た時は気づかなかったが、トップページに市長からのコメントというリンクがあり気になったのでクリックする、すると市長の家でもペットの犬が人化して、身近な問題として市では犬人猫人に関して全面的に応援すると宣言していた。
なるほど、法案可決前からの申請受け付け、職員の丁寧な態度、市役所の食堂で特別メニュー出したりは市長のこの宣言を受けての動きだったのかな。
そう考えながら、教育と書いてあるリンクをクリックする。
幼稚園は無理か、保育園は共働きか片親を優先、小学校は入学年齢に達している場合に限り二学期からの編入可能、茶羽と黒羽は5歳だから来年の4月に他の子と同じで通常入学になる、その場合通常クラスで入学出来るらしい。
「入学案内は秋ごろ書類をご自宅に郵送か、なら待ってればいいな。」
そこまで確認するとブラウザーを閉じパソコンの電源を切り背伸びをして、再度住民票や戸籍謄本の続柄を見てはニヤニヤとする。
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