『源氏物語』超入門

蓬葉 yomoginoha

桐壺(きりつぼ)

 昔々、桐壺きりつぼの帝の頃、桐壺の更衣こういという女性がいました。桐壺の更衣は桐壺帝からとてもふかい愛情を受けます。

 しかし、宮中では「後ろ盾となる人物」が必要です。たいがいは父親や兄など一族の貴族が後ろ盾となるのですが、桐壺の更衣の父親であった按察あぜち大納言だいなごんは既に亡くなっており、とてもそのような人物はいませんでした。

 その結果、桐壺の更衣は桐壺帝の他の妃たちから嫌がらせを受けてもやり返す手段がありませんでした。


 その後、桐壺の更衣は一人の男の子を出産します。輝くように美しい男の子だったので「光る君」と呼ばれました。のちの光源氏です。しかし病がちだった桐壺の更衣は、光る君が三歳になった時に突如亡くなってしまいます。

 桐壺帝は深く悲しみ、新たに藤壺ふじつぼという女性を入内じゅだいさせます。藤壺は先帝の皇女でしたが、なんと桐壺の更衣に瓜二つだったのです。


 一方光る君は皇太子となることも考えられましたが、桐壺の更衣亡き今、さらに後ろ盾はありません。また光る君が帝位につけば国は乱れると高麗人に予言されたこともあり、臣籍降下しんせきこうかさせ「源氏」の姓を与えられました。「光る君」あらため「光源氏」は、5歳違いの藤壺を姉のように慕うようになります。しかし、元服してからは身近に寄ることもできなくなり、また左大臣の娘であるあおいうえと結婚することとなりました。ただ、もともと葵の上は皇太子(桐壺帝の子、光源氏の異母兄でのちの朱雀帝)の妃となるはずでした。誇り高いプライドを持つ葵の上と、藤壺の面影を追い求める光源氏との夫婦仲は冷たいものでした。



登場人物

桐壺帝・・・源氏の父。

桐壺の更衣・・・源氏の母。故按察大納言の娘桐壺帝の寵愛ちょうあいを受けるが、他の妃の嫌がらせを受け、源氏三歳の年に病死。

光源氏・・・『源氏物語』の主人公。光り輝くような美少年。

藤壺・・・桐壺の更衣の死後、桐壺帝の妃になった、桐壺の更衣に瓜二つの女性。光源氏の5歳年上で、姉弟のような関係に。

葵の上・・・左大臣の娘で、光源氏の妻。夫婦仲はよくなかった。

左大臣・・・藤原氏。葵の上や頭中将(源氏の親友)の父。



臣籍降下・・・皇族が臣下の身分になること。皇族は律令の定めにより一定の所得が与えられることになっていた。それが財政を圧迫する要因となったため、皇位継承の可能性がなくなった皇親たちに姓を与えて臣籍降下させるようになった。臣籍降下した人物は平姓、在原姓を名乗ったが、源姓が一番多かった印象。源頼朝も、もともと清和天皇の孫、経基王が臣籍降下に伴い源経基となってできた「清和源氏」の子孫。平安時代中頃に活躍した源高明みなもとのたかあきらは醍醐源氏、鎌倉時代初期に活躍した源通親みなもとのみちちかは村上源氏。源氏なのに武士でない人間が何人もいるのはこれが原因。

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