第1981話 話して損した

宇宙は膨張し続けているという


その意味が今ひとつ、よく理解できていなかったが


何故だか最近ふと、俺が子供の頃に親父が言っていた話を思い出すようになった


親父は大学時代、山岳部だったそうで


ある時、関西の何処かの岩山を登っている最中、突然


ずっ・・・

ずずっ・・・


体が岩山を滑りかけるのを感じ


あ・・・落ちるわ・・・


どういった状況だったか聞いてないが、命綱を付けずに登っていたらしく


「落ちるわ」とだけ頭に浮かんだ瞬間


「T、何してんの」


隣にいた友人が親父の腕を掴み、滑落を免れたという


滑りかけだったからか、軽く掴まれただけで止まったそうだが


「あの時あいつに腕を掴まれなかったら多分、勢いついて落ちて死んでたと思う」


その話をするとき必ず親父は身震いしていたから、本当の体験なんだろう


その話、いま改めて考えてみると


もしその時親父が亡くなっていたとすれば


母親と会うこともなく、今の俺が生まれることもなく、娘が生まれることもなく孫も生まれてこなかった


未来の可能性の一部・・・扇の角度でどのくらいの広さかは分からないが、欠落していたのは確実だ


まあ、至極当たり前の話なんだけど。


で、冒頭に戻って宇宙の膨張の話


最初2人から始まった人類が現在80億人を越えているから


起こりうるかも知れない未来の可能性は膨大に拡がり続けているわけで


まるで宇宙じゃないかと。

つまり宇宙とは、可能性じゃないのかと。


俺「たまにはそんなことに考えを巡らせるのも良いんじゃないかな〜と思うぞ」


宮里くん(26)「へぇ〜。頑固おやじの滑らな〜い話、ですね!」


・・・頑固?

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