第1264話 周回

よく、駅の構内などに「御自由にお弾きください」とピアノが置いてあるが


新幹線の新神戸駅にも設置されている


先日、改札を出ると


グレーの長髪を後ろに束ねたスーツ姿の初老の男性がピアノを弾いている


ピアノはよく分からないが、なかなか上手いのではなかろうか


そのうち熱を帯びてきたのか連弾になり、完全に自分の世界に入ってしまったようだ


俺は少しの間立ち止まり、その演奏を何となく眺めていたが


ちょっとやりすぎよね・・・皆、敬遠しながら男性の背後を通りすぎる


俺も立ち去ろうとしかけたとき、その男性は


「ダダダダン!ダダ〜ン!!」


ようやく気が済んだのか、ピアノソロを弾き終えるとスッと立ち上がり


後ろを振り向くと軽く一礼する


・・・が、誰も見ていない


ヤバい人?と思われていることを自覚していないようだ


プッと笑いながら、俺は少し先にある蕎麦屋に向かった


30分後、店を出てピアノ横にあるエスカレーターに向かうと


帽子を被った初老の男性が「おやこんなところにピアノ?」的な感じで立ち止まり、ジーッと眺めている


だが・・・

どこかで見たような・・・あ。


さっきのオッサンが帽子被っただけやないか。


まだいたのか笑


そんなに弾きたいなら弾けば良いのに・・・


と、ピアノ近くの長椅子に座っていた老婦人3人が会話している


「あっら〜また来はった3回目やで」

「帽子被ってるけどすぐわかるわ」

「ぐるぐるぐるぐるウチのハムスターみたいや」


それが聞こえたのか男性は慌てピアノから去っていった

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