第1229話 伝承者

久々に大阪のマスターのバーに寄ると


なにやら店奥で、マスターが女性に抱きつかれている


俺が入ってきたのに気付いた女性が渋々?マスターから離れてカウンター席に座る


なんか俺、タイミング悪かったかな?


「Tちゃん久しぶり!」


マスターには、気まずいところを見られた感はない


俺はその女性から数席離れたカウンター左手に座る


おしぼりをもらい、一段落したところで我慢していたトイレに向かう


出てくると、再びマスターが女性に背後から羽交締めにされている


マスター「こ、この子、NO.1マッサージ師やねん・・・あいたたた!」


女性「マッサージ、いかがですかぁ?」


マスター曰く、彼女は保険外交員専門のマッサージ師だそうで


業界で指名率NO.1なのだという


「この子、腕が良くてな、股間リンパなんかもキワまで攻めまくりで俺(60)が若かったらもう、ビンビン・・・」


「それ言わなくていい~」


なに乳繰り合うとるねん・・・苦笑いしながら席に着く


「俺、いつもの。」


「わたし次、マッカラン飲みた~い」


2人のグラスを作ったあとマスターは、俺のアテを作りに厨房に引っ込む


「マッサージお嫌いですぅ?」


「あっ俺、"こそばがり(くすぐったがり)"なので」


その後はお互い会話することもなく、俺はスマホから天気図だのお客さんのメールだのをチェックしていた


時折女性が


「んふ〜♡」


「はぁ〜♡」


ニコニコしながら声を漏らすのだが、その目線はグラスを越えてはるか先。


一体どこを見ているのだろう・・・


まあ、気分良く?酔っているのだろうと触れないでいた


そのうち俺の料理を作り終えたマスターが出てくると、再びマッサージの続きが行われる


さっきので終わったんじゃなかったのか笑


マスター「あいたたた・・・Tくんなんか、筋肉痛にはなっても凝ることなんてないんやろうなぁ」


女性「筋肉痛なんですかぁ?わたし筋肉痛も、解せますよぉ~」


その後20分ほどして、彼女は帰って行った


「マスター、あの彼女、なんだか凄く悩んでない?」


「あ、わかる?」


「なんかグラス見つめてる先が遠かったけど」


どうやら彼女には彼氏がいるのだが


週2日だけ家に来て、散々わがまま放題して帰っていくのだという


その男、既婚者ではないらしいが、彼女のほうには成人した娘・息子がいて


子ども達はその男の事をとても嫌っているらしい


だが、どんなに酷い男でも別れるつもりはないです、と


彼女はいつも、遠い目をして言うそうだ


俺「ああ・・・それが飲みかたに出るわけですね」


マスター「そんな男別れてまえ!言うても、そない簡単にはいかんみたいやな」


「しがみつかなアカンのでしょうか、その男に・・・マスターもさっきしがみつかれてましたけど笑」


「あ、少なからず男に対する怒りが指先に表れてる笑」


―それから数日後。


マスターからLINEが入った


彼女の彼氏が頸椎捻挫(という名のムチ打ち損傷)で入院したのだという


それ自体はどうでもよい話だったが


マスター「『神経の通う場所は押し方一つで死んじゃうこともあるんですよぉー』って笑いながら首裏ギュー!ってされたんやけど。男の入院って、まさか・・・笑」


彼女は一子相伝の、アレの使い手ではなかろうか(-.-;)

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