第821話 手に職

上の娘宅にお邪魔すると


孫息子の海(かい・小3)が不機嫌そうにやってきた


「あのさあ・・・ちょっと聞いてよ・・・」


先だってクラスでお楽しみ会みたいなことがあって


普段何かと張り合っている男の子(本人は「仲の悪い子」と言っているが)が


なにやらコインマジックを披露したと。


その内容を説明してくれるのだが今一つ判らない・・・のだけど


要は消失マジックの一つだ


それが凄くて、一躍クラスの人気者になったと。


海としてはそれが気に食わない、ということらしい


「海くんは何をやったの?」


「コント」


「え、コントやったの?数人で?あ~でもいまいち受けなかったのか」


「なんか腹が立ってさあ・・・先生まで『凄い!凄い!』って言ってたんだよ?」


「でもあれだよ、説明なんとなく聞いてて思ったけど、ギミックコインってのを使ってる可能性があるな、それ」


「ギミックコインってなに?」


「仕掛けのしてある、店で売ってるやつ」


「え~僕も欲しい!ジージ買いに行こうよぉ~」


「いや、海くん。意外とそういうのって、お高いくせに一つのネタしか出来ないからコスパ悪いぞ?」


「コスパってなに?」


「ともかく、皆をアッと言わせれば良いんだよね?」


「うん」


「じゃあさ、トランプマジックとかでもいい?」


「どんなの?」


早速トランプを持ってこさせる


俺のやろうとするマジックは、永遠にトップが替わる、というやつだ


右手で握ったトランプの束を左手で隠すたび、一瞬でトップのカードが変わっているというもの


早速、至近距離で披露してやる


「なんで?!えっどうして?!え~~っ!!!」


「こんなので良いのかな?」


「凄い!!おしえて~!!!」


子どもの手だと難しいかな~とも思ったが、学校に常備されているトランプは、子ども用に1回りほど小さいらしい


子ども用なら出来るかも知れないと思い、早速近所の雑貨屋で小さめのトランプを買ってきた


というわけで


何の仕込みも要らず、手をかざすと何度もトランプのトップが変わる、というのを教えてやる


1時間も練習すれば、海は殆どマスターできた


じつはこれ、緊張して失敗しても、見ている側にはまずカラクリが判らない



さて、10日ほど経った


海から電話が掛かってくる


「じーじ!あれ、すごかったわ!!」


「みんなびっくりした?」


「うん!となりのクラスの子もみんな見にきた!先生にもわからないって!」


「ぜったいネタバラシしちゃだめだよ?」


「してない!ママがね、海はこれでいっしょう喰っていけるって!」


そんな甘々な世の中ならジージも暮らしてみたい・・・('~`;)

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