第677話 大義

新幹線の、大阪方面ホームに上がるエスカレーターに向かっていた


もうあと2分で列車が入ってくるというギリギリだったため


すでに走り始めていた俺は、そのままエスカレーターを駆け上がる


・・・と


「走らないでくださいよ!」という声がして、後ろを振り返る


まさに『エスカレーターでは走らないでください』とプラカードを持った警備員が俺を見上げていて


「危ないので走らないでくださいね!」と畳みかける


「いや新幹線乗り損ねたらあんた、どう・・・」と言いかけて


ホームから「13番線に新幹線が入ります、ご注意ください」のアナウンスが聞こえたため、再び駆け上がる


まあ結果は1分ほど余裕があったのだが、乗り込んで席に座り


あのオッサンにズバッと言うてやりたかったな・・・と思ったが、こちらもルールは守らなあかん


昨年末だったか、朝から孫息子を連れてイオンモールへおもちゃを買いに行った時に


その日発売される予定の、何だったか忘れたけれども


ショッピングモールの駐車場に着くなり、孫息子が車からパッと飛び降りると、隣接するモールのエスカレーター目掛けて走り出したので


「危ないよ!走ったら!」と注意する


しかし孫息子は一瞬振り向いただけで、また走り出したので


「走ったらダメ!一緒に行きなさい!」再度強めに言うと


「じゃあみんなが買いにきておそくなって売り切れたらジージのせいだから!」


そう、言われたことを思い出した


走るな危険!は大義で

間に合わない!売り切れる!は小義か。


これも昨年の12月24日。


仕事納めの17時半に、宮里くんが時計をチラチラ見ながらPCで資料作りをしている


「急がなくていいものなら年明けにやりゃあいいじゃないの」U部長が声を掛けると


「いえ(大阪に出張中の)Tさんの宿題で、今日中にデータ送らないと・・・」宮里くんが嘆く


「ああ例のやつか。それはサボっていたお前が悪い」


「そうっすよね・・・はぁ〜でもなぁ・・・!」


「何を焦ってるの?慌てて作って間違えたら、またTさんに怒られるぞ?」


「わかってんすよ!はぁぁ・・・」


「なんか大事な約束あるの?まあイヴだしなぁ・・・あとどのくらい掛かりそうなんだ?」


「まだ30分は・・・」


「じゃあ集中して頑張るしかないだろ?何か手伝ってやろうか?」


「じゃあすみません、この票チェックしてもらえますか?」


「おう、いいよ」


・・・結局、俺にデータが送られてきたのは19時半。それもU部長からだった


年が明け、その資料のことで確認したいことがあり


宮里くんにLINEしようとしたが、まだ三が日だし可哀想かな・・・と思い直す


資料自体はU部長から送られてきたし、U部長が内容を知ってるかも・・・と思い、LINEしてみる


すぐ既読になり、確認したい内容はU部長から知り得ることができた


「そもそも24日は、なんで部長がデータ送ってきてくれたんだ?」


そこで初めてU部長から、先程の24日のくだりを聞かされた


「えっ、何をアイツそんなに急いでたん?間に合ったん?」


「ええ、まあ。夜遅くに『間に合いました有難う御座いました!!』とLINE来ました」


「あ〜合コンとか?」


「違います。アイツが通い詰めてる風俗の人気No.1、さやかちゃんって子を3日前から指名していたらしく。19時から『クリスマスイヴ・ラブラブ120分コース』だったそうです」


俺の資料かラブラブ120分か。


う〜ん。

正直どちらが大義か、わからん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る