第398話 呼び名

街中で、船頭さん!と声を掛けられることには慣れているが


釣具屋さん!と呼ばれることもあって


餌なんか売ったことないんだけどな~と思いながらも、挨拶は返している


一時期、夏場に、浴衣姿に草履というスタイルで飲み歩いていたことがあり


あるとき馴染みのスナックに入ると、すでにカウンターでは数名、客が盛り上がっている


多いなぁ帰ろうかなぁと思っていると強引に店のママに引き止められたのでカウンターの端に座る


「さっき言ってた怖い話する人、この人さぁ~」


ママからそんな紹介をされた


どうやら先程まで、それ系の話で盛り上がっていたらしい


「ちょっと皆に聞かせてよぉ~」と言われる


あー、だから強引に引き留められのか


そんな訳で3話ほど皆さんに披露したところ、まあまあウケた


それから数日後


那覇のとある街中を歩いていると「あっ、お坊様!」と声を掛けられ


振り向くと先日、怪談話を披露したときに居合わせたカウンター客の1人が立っている


「この前は怖かったよぉ~ほんと!また聞かせてくださいね!」


のちにスナックのママに聞いたところによると俺は「廃寺の坊さん」と呼ばれているそうだ


なんで廃寺なんだ


さて。


とある本屋で単行本を探していると、いつの間にか隣に20代の女性が立っている


「まさネコだろ?」


「・・・は?」


「ともネコだニャン」


「ごめん・・・誰?」


「ちょっとぉ~黒猫カフェで挨拶したじゃないかぁ」


あ。思い出した。


話のネタにと宮里くんが、メイドカフェに連れて行ってくれたのだ


「ごめん、気付かなかった」


「ダメじゃないかぁ~あたし、ニャいさつ教えてあげただろ?」


「はぁ・・・」


「まさネコ真面目か。あたしが恥ずかしいじゃないか。ちゃんとニャいさつしてね」


「え~っと・・・」


「にゃ♡いちにーさん♡にゃ♡」


「・・・・・」


「ありがとー♡って言うんだよぉ~、忘れた?」


「あっ、はい」


「いくぞ?にゃ♡いちにーさん♡にゃ♡」


「ありがとー」


「吹っ切れまさネコ。いくよ?にゃ♡いちにーさん♡にゃ♡」


「ありがとー♡」


「にゃ♡いちにーさん♡にゃ♡」


「ありがっとー♡」


俺は本屋の片隅で何をやらされとるのだ(と言いつつ、ちょっと楽しい)


その後、夜にもすれ違った事があった


ともネコ「あっまさネコ!にゃ♡いちにーさん♡にゃ♡」


俺「ありがっとー♡」


俺が調教されたまさネコとは、まだ誰も知らない


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