第369話 言い訳の精度

「ありませんか」https://kakuyomu.jp/works/16816927860625905616/episodes/16816927862012372162で、音が鳴らなかったと居留守を使う、という話を載せたが


谷やん(脳筋ぶっちぎり1号)には「すみません寝てました」の言い訳をよく使われた


あまりにもそれが続き、いずれ重要な打合せに穴を空けそうな気がしたので


これは一度、懲らしめねばと思い、まだ谷やんが独り身の頃の話だが


ある朝7時、遅刻しそうな日に目星を付け、谷やんの住むアパートに出向いた


朝7時半、スマホに1回目の電話をかける


・・・出ない。


実はこの日、事務所での待ち合わせが7時半だった


案の定か・・・


7時40分、2回目の電話をかける


出ない


こいつ・・・(ー ー;)


部屋の前まで行ってドンガドンガ、戸を叩いてやろうかと思っていたら


ヨレヨレのTシャツに短パン、汚い野球帽を被った谷やんがエントランスから出てきた


あっ!あいつ!


出社するには余りにもだらしなさ過ぎる格好の谷やんが、ダルそうに何処かへと向かう


後をつける


程なく近所のコンビニに入った


よし、出たところを捕まえてやろう


外からはよく分からんが、サンドウィッチと缶コーヒーを買った様子


相変わらずダルそうに金を払い、ダルそうに出てきたところを


「谷っ!!」


真正面から怒鳴る


帽子の奥の谷やんの目があからさまに動揺したが


奴は何を思ったのか


俺を無視すると、アパートとは反対側へと足早に歩き出す


「こらっ!谷!!」呼び止めるが


奴はどうやら気付かないふりを決め込んだようだ


「とまらんかコラ!!」


一際大きな声で怒鳴る


あからさまにビクッとした谷やんが、


「ダレデスカ ヒトチガイデス」


足早に歩きながら、かたことで言う


「こらっ!いつまでふざけとるんじゃ!!」


「コワイコワイ ニホンコワイ」


更に歩みのスピードを上げたので、馬鹿らしくなって追いかけるのをやめた


「お前がそのつもりなら!もう辞めろ!!2度と来るな!!」


谷やんの背に投げかけ、踵を返して元来た道を戻る


車で事務所に戻ってくると8時10分になっていた


「おはようございます」


席に着こうとする俺にU部長が近づいてくる


「さっき谷から電話があって、今起きたから急いで行きますとの事です」


な〜にが今起きた、だ(-_-メ)


8時45分。谷やんが出社してきた。


「すみません!遅くなりました!」


すみません、すみませんと皆に詫びて回るが、俺には近寄ってこない


俺も無視していた


「お前これで何度目だ?!いいかげん社会人としての自覚を持てよ!!」


U部長にこっぴどく怒られている


「すみませんでした・・・あのU部長、実はちょっと最近、気になることがあって・・・」


「なんだよ?」


「気になって、なかなか眠れなくて、こんな迷惑ばかりかけて、すみません」


「だから何だよ?!」


「あの、最近・・・ウチのまわりに、僕と似た奴がいるらしくて」


「はぁ?」


「何人もいるらしくて、コンビニとかでも間違われるんです」


「・・・何を言ってるのお前?」


「いや、だから、僕と似た奴がいっぱいいるみたいで」


お前は磯野カツオか。


ちなみに未だ、俺と会ったことを認めていない。

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