第295話 タクシー待合室にて

神戸出身なので、小さい頃からタイガースファン


ただ、今は関西を離れてしまったので少し熱が下がったかもしれない


10年ほど前だったろうか、甲子園でデーゲームを応援した帰りの話


試合中、散々飲んで酔っぱらったので


芦屋という駅からホテルまで、タクシーに乗ることにした


駅改札を出て、クーラーの効いたタクシー待合室に向かうと、中にはおばあさんが1人


待合室の外には、おそらくタイガースを応援していたであろう家族連れ4名


俺が待合室に入ると、ハッピとかメガホンとか黒基調のフル装備が怖かったのだろうか・・・おばあさんは更に奥へ


俺は怖がらせないよう、なるべく離れて立っていた


タクシーが到着し、おばあさんが待合室の戸をカラカラと開けて乗ろうとしたとき


外で立っていた家族が順番を無視して乗ろうとしたので


おばあさんは「私が先なんですけど?」と家族に注意し、タクシーに乗りこむ


・・・暫くして2台目のタクシーが到着


本来なら俺の順番なのだが、特に急ぐこともないので待合室から出ないでいた


いいですか?と目線を向けた父親らしい男性に軽く会釈し、外の家族4人が先に乗っていった


10分ほど経って3台目のタクシーが到着


それは最初の、おばあさんを乗せていったタクシーだった


俺が乗って間もなく、運転手が


「お兄さん、さっきの家族連れ、どうなりました?」と訊くので


「次のタクシーに乗ったよ」と答える


運転手が続けて


「ルール守らない奴らいるなぁ、何で待合室で待たないのかなぁ?」


そう憤慨するので


「別に気にしてませんよ」と答えたところ、運転手が言うには


「いやあね、さっき乗せたおばあさんがね、恐らくあの家族連れ、待合室の恐いお兄さんに何か言われてるだろうから、早く戻ってあげてって急かすもんだからさ。ほら(と自分の頭を指差し)私もこんな薄いけど、ハゲに悪い奴はおらん!って言うといたからな、お兄さん」



ハゲ言うな

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