第270話 久木田のオカン

俺の生まれ育った地元には、久木田という幼馴染みがいた


お互いの家が近かった訳ではない


おそらく、幼稚園のころに公園で遊んでいて、なんとなく知り合いになり


気がつけばいつも一緒にいた気がする


10歳ごろまで、どちらかの家に出入りしては遊んでいた


10歳ごろまでは。


つまらない俺の、ある行動で、それも途切れるのだが・・・


どちらかの家と書いたが、厳密には3年生までは俺の家


4年生になってからは、ほぼ久木田の家で夕飯時まで遊んでいた


久木田は母子家庭で、当時36ぐらいの母親は、神戸の三ノ宮でカウンターレディとして働いていた


朝がた帰宅して15時過ぎまで寝る生活なので


子どもには昼間、あまり部屋で騒いで欲しくなかったことと


市営団地の3階に住んでいたのだが


下の階のオッサンが"うるさい!"と怒鳴り込んできたこともあるらしく


そんなことで、全く俺を家に呼んでくれなかった


4年生になってすぐの頃


久木田が誕生日を迎えるので、前日に、当時男子の中で大ブームだった「ロボダッチ」というプラモデルの


シリーズの中でもちょっと高価な、ドクロ基地というやつを買い、当日学校へ持っていった


朝、それを渡すと久木田はたいそう喜んでくれ


「今日はオカンも休みやから来てもええで」と初めて言われ


遂に念願の初訪問を果たすこととなった


久木田の母親は、俺がお邪魔した時には奥で寝ていたのだが


久木田と俺で手分けしてドクロ基地を作っていると、突然起きてきた


まさか友達が来ているとは知らず


頭にカーラーを巻き、Tシャツにパンティという"いでたち"で登場した母親


俺も驚いたが・・・


久木田の母親も「あっ!」と言ったまま奥に引っ込んでしまい


しまったと思った久木田が、慌てて弁解しに母親を追って奥に行ったのだが


「友達呼ぶなら呼ぶって言えや、このアホ!!」と怒鳴られている


うおお~恐ええ・・・


久木田が戻って来たので「俺、帰るわ」と言うと


「ええねんええねん、オカンがええって言うた」と笑っている


結局その日、綺麗に着替えた母親に「一緒に祝ったげてくれる?」と言われ


晩ご飯までご馳走になった


・・・それからというもの、俺は久木田家に入り浸りになった


「今日はそっち(俺の家)行こうや~」と言うのを断り


お前の家の方がオモロいから!!静かにするから!!と


半ば強引にお邪魔し続けた


何故か?

理由は明白


初めてパンティ姿を見た時から


久木田のオカンに10才のハートが奪われてしまったのだ


90cm近くある胸(当時の想定)・・・

なまめかしいナマ足・・・

決して美人ではないが、顔のパーツパーツの造形の妙・・・


俺は、久木田と遊ぶためというより


母親に会うために、何かと理由を付けてお邪魔していた


だから、なかなか起きてこない時などはワザと騒いでみたりした


唯一と言っていい、家に遊びに来る友達の俺に対し


久木田の母親も、初めの頃こそ恐かったが


そのうちとても可愛がってくれるようになった


一緒にトランプなんかもするのだが


屈んだときにシャツから見える胸元に、ヤバイくらい反応していた


久木田の母親には恐らく、もう早い段階でバレていたと思う・・・


俺が、そういう目で見ていたことを


ある日、いつものように久木田家に遊びに行き


俺は調子に乗って「お前ん家に泊まってもいいか」と聞いてみた


久木田がそれを伝えにいくと、母親が俺の処にやってきた


そして俺に「いいよ~泊まって。じゃあ、おばちゃんと一緒にお風呂入ろっか?」とウインクしてきた


久木田は「おかん!アホなこと言わんといてや!」と怒っていたが


俺は内心「見破られた・・・」と心臓がドキドキしてきた


そして恥ずかしさのあまり「俺、帰るわ」そう言って突然、久木田家を出た


家に帰ってからも


"おばちゃんには、俺がやらしい目でみてたことバレてたんや!"


そればかりが頭を巡った


それからというもの、久木田とは変わらず遊んでいたが、2度と久木田家に行くことは無かった



そして10年が経った。



俺は大学3回生になっていたが


ある日、仲間内で「有馬温泉に行こう」ということになった


俺の地元から有馬温泉は、車で10分離れているだけ


俺に土地勘のあることを知っていての、皆の提案だった


「お、ええよ、フロントに知り合いが働いとる旅館もあるし」


そんな訳で、秋口に差し掛かったとある土日


男ばかり10名で有馬温泉へ小旅行した


宴会で騒ぎ、温泉に浸かり


22時過ぎだったか、外に散歩に行こうや、ということになる


情緒ある温泉街も、メインストリートはそう長くない


下駄を響かせ歩いていると、ここから先はただの山道、という所までやってくる


「お~Tよぉ、この先は何もないのか?」


「もう無いと思うで・・・」


そうは言ったものの、もう少し探索してみるかということになり、歩き続ける


5分ほど田舎道を川沿いに下っていくと


左手に「ストリップ」とブルーの看板が出ているのを発見


「おい、あそこにストリップあるやんか」


「看板、電気付いとるで」


「・・・にしても小さい小屋やな」


「どうする?入ってみる?」


誰も異論がないので、俺がその小屋の扉を開ける


入ると、薄暗~い通路の奥でカーテンが閉じられており


その手前の右手に、切符売りの売店のような窓がある


窓といってもガラスは無く


覗くと年の頃は我々と同じくらいの、ロン毛の兄ちゃんが、座ってこちらを見ている


「10人やけど行ける?」


「一人○千円です(もう忘れた)」


皆から金を徴収し、俺が纏めて兄ちゃんに払う


「はい、じゃあそのカーテンの奥に3段席があるから、そこに適当に座ってください」


俺等はゾロゾロとカーテンの奥に入る


入ると確かに雛壇が3段あって


前方3メートルあたり先に、幕の閉じられたステージがある


3人づつ、3段に座り、待つ


ほどなくビーッとブザーが鳴り、先ほどの兄ちゃんであろう声が響く


「皆様本日は、この有馬温泉の秘境へようこそ。それでは只今より、ビビアン嬢による華麗なるストリップショーをお楽しみください。あ、くれぐれも席はお立ちにならないように・・・」


そして舞台は暗転、あやしいムード音楽が流れ出し、幕が開く


壇上には、青白いスポットライトに照らし出された金髪ロングヘアーのビビアン嬢


「いよっ!」


「待ってました!」


俺等は盛大に拍手


こんな温泉街の小さなストリップ小屋であっても、"見られる"ことを商売にしている女性は綺麗なもので


スタイルは抜群、男心をそそるステージが続く


90cm近くある胸・・・

なまめかしいナマ足・・・

決して美人ではないが、顔のパーツパーツの造形の妙・・・


・・・ん?


・・・あれ?


最後にビビアン嬢が我々に向かい、足を拡げて御開帳


股の間で、持っていた扇子をバッと開き


「有馬の風よぉ〜」と我々にむけて扇ぐ


そこでショーは終った

たかだか10分そこらの催し物


それでも仲間たちは結構楽しんだようだ


「ありがとうございました、ありがとうございました、お忘れ物なきよう・・・」


アナウンスに送られ、ステージを出る


「じゃあ、戻るか」皆が出ようとするので、ちょっと外で待っててくれと頼み


踵を返して切符売りの窓をのぞき込み、ロン毛の兄ちゃんに


「ちょっと、お願いがあるんやけど」と声を掛ける


「なんでしょう?」


「あの、ビビアンさんに一言だけお礼言いたくて」


「・・・あ、別に良いですよ、ただしあまり長くは」


「いやいや、1分だけでいいので」


「わかりました、ちょっと待っててください」


そう言って兄ちゃんは奥に消える


直ぐに左手の扉が開き、どうぞ、と促される


少し廊下を歩くと部屋があり


バスローブを纏ったビビアン嬢が笑顔で迎えてくれる


「今日はありがとう!皆さん、学生さんかな?こんなおばちゃんでごめんねー」


先に声を掛けてくれるビビアン嬢


「あの!・・・人違いだったらすみません、俺、Tって言います」


「はい、Tさん?」


「憶えてないすか・・・小4の時よく遊びに行かせて貰うてたんです」


一瞬俺を見つめたあと


薄暗い中でも、ビビアン嬢が"ハッ"となったのが、わかる


そこで俺は"しまった!"と反省した


たとえ"それ"が合っていたとしても


ビビアン嬢にとっては嫌であろうことを今、俺はしているかも・・・


「あ、いや、何でもないので!すみません!」


そういって部屋を出ようとしたとき


「Tくんて?あのTくんかいな!大きいなって~!!」


なんと憶えていてくれた


「あれぇ?おばちゃんと一緒にお風呂入るんやなかったぁ?」


悪戯っぽく言って、俺に笑いかけてくれた


俺は何故だか無性に泣きたくなってきた


そのとき背後から「お客さん、そろそろ」と、兄ちゃんが声を掛けてきた


幼き日の郷愁から我に返った俺が


「おばちゃん、ほな、また・・・」そう言って立ち去ろうとすると


おばちゃんが「あつし!あつし!」と呼ぶ


・・・ん、あつし?


「あ〜?」


入って来たロン毛の兄ちゃんに、おばちゃんが俺を指差し「Tくん!Tくんやん!!」と言う


「・・・えっ、久木田?!」


「・・・えっ、Tちゃん?!」


その後


ストリップ小屋だけと思っていたら、その裏手はスナックになっていて


おばちゃんはそこでママも兼務でやっており、観光客相手に、そこそこ流行っているらしかった


久木田は自分の仕事の合間に


客の多い土日だけ、母親の店を手伝いに来ているそうだ


その晩、今日ここに乗せたストーリーの初めから終わりまでをサカナに


おばちゃんの店で仲間達とともに、夜更けまで飲み明かした

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