第239話 ねこ2

「ねこ」という話でも載せたが、沖縄は猫天国だ


野良犬はとんと見かけなくなったが、猫はそこらじゅうにいる


さて鎌倉時代から


猫が長生きすると、尻尾が2本になり人の言葉も覚え、二足歩行もできる「猫又」となる、という言い伝えがある


まあそれほど昔から、人と猫は密接な関係があるということだ


昨年4月。


ゴールデンウィーク前に新しいポイントでも探しておこうと、1人で沖に探索釣行に出た


八重山諸島をぐるぐる回り、海底地形や魚探を確認しながら竿を出してみる


基本はジギング(ルアー)だが、冷凍キビナゴを解凍しての餌釣りなんかも試す


そうやって漁場をウロウロし始めて30分ほど経ったころ


何気にキビナゴを針に付けようとして背後を振り向くと


キジトラの子猫がじっと見ている


え?


「どうしたん?!」思わず声を上げてしまい、子猫は船の隙間にサッ!と逃げてしまった


たまにあるのだ猫の乗組員。


俺は船中泊の予定で出てきていたから、今更引き返すわけにもいかない


釣りをやめ、大きめのカップにミネラルウォーターを注いで、顔だけ出している子猫の近くに置く


「おーい。出ておいでよ」


もちろん出てこない


多分あれだな、餌に使っているキビナゴにつられて出てきたんだろう


しかし冷凍キビナゴなんて所詮は魚のエサ、品質保証できないし、あげるわけにはいかない


どうするかなぁ・・・


魚探を見ると、なんかわからんが上層に小魚の大群。


よし。急遽、サビキ釣りの仕掛けを船底から出してくる


ちなみにサビキ釣りと言っても波止で使うようなものではなく、30〜60センチクラスにも耐える仕掛けだ(たまにカツオも掛かってしまう)


「ちょっと待っててよ」


子猫に言い、仕掛けの組めた竿を船外に出し、落としていくと


30m沈めた辺りでゴンゴン当たりがきた


多分数匹、一気に掛かったのだろう


仕掛けが絡まないように一気に巻き上げる


上がってきたのは40センチクラスの「ツムブリ」


サビキを船のへり沿いに手で上げていく


魚は全部で6匹掛かっていた


うち5匹を水槽に入れて泳がせ、1匹をシメる


この魚、ツムブリという名前だがどちらかといえばアジに近い


冬場のツムブリは絶品だ


ただ、何処にでもいるからターゲットフィッシュにはならない


釣っても逃すか、たまに生き餌(マグロ用)にするくらいだ


さて。


シメた1匹を持って船の後部に戻る


俺がしまい忘れた冷凍キビナゴを狙ってか、子猫が出てきかけていたが


俺を見て隠れてしまう


「もうちょっと、待っててよぉ〜」


簡易コンロで湯を沸かしながら、ツムブリを捌く


半身の、さらに半分を薄く刺身状にしたあと、包丁で細かく砕く


なめろうみたいなものだ


残り半分は沸騰した湯に浸け、5分ほどボイルする


それを紙皿に移し、指でほぐす


シーチキンだ


なめろうもどきとシーチキンもどきを子猫の近くに置く


その横に水も置いておく


で、俺は船室に身を隠してみた


1分もしないうちに子猫が出てきて、なめろうの方の匂いを嗅いでいたが・・・おっ!


ガツガツっと食べだした


ただ、カップの水に気付かなかったようなので、紙皿のフチを折り、そこに水を入れてやると、のちに飲んでくれるようになった


なんとか子猫の餌付けに成功したので、予定通り翌日も釣行を続け、午後3時に港に戻ってきた


すると、船着場の横に積んである木材のパレットから1匹のキジトラがこちらを見ている


あ、親猫か?


普段は船から岸に上がる時は、ひょいっと飛び移るだけなのだが


資材置き場にちょうど1.5mくらいの板があったので、岸と船を橋渡しする


完全に慣れたわけではないが、俺がそばに居ても出ていた子猫が「にゃ〜」と鳴く


それを聞いた、例の親と思しきキジトラが掛けてくる


そして、俺を警戒しながらも、ゆっくりゆっくり足元を確認しながら板を伝って船内に降り


サッ!と子猫を咥えたかと思うと、また板を伝ってタタタッ!と駆け上がり、俺を見る


さて。


冒頭で猫又の話をしたのだから、ここで親猫が前片足をスッと上げて


「子供の世話、ありがとな」そう言われた気がした・・・


であればキレイに終わることができたのだが


俺を見る親猫の尻尾が、ブワッ!と膨らんだかと思うと、ぷいと走っていってしまった


あとで聞いたら、それは怒ってる仕草らしいですね


誘拐犯にしか見えなかったのかな。

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