第197話 ピンクチラシ

27歳の頃、一人暮らしをしていたマンション


築も古く、入り口玄関はオートロック対応しておらず


誰でも入れる、超ゆるいセキュリティ


夏場など屋上の眺めが割りと良いので(・・・といった情報をいったい何処から聞き付けるのか不思議だが)


高校生のカップルが勝手に侵入していたりする


管理人もいないので自主管理


そして俺は当時、3年連続の自治会長


とにかく老人が多い


「若くて頼れるのはアンタしか居らんからな」


そう言われ続け


もう面倒臭いので、会長を引き受けたまま3年が過ぎたのだ


要は苦情係&治安係みたいなもん


ある土曜日、仕事から帰ってくると、家に留守電が7件


住人のおばあちゃん2人が、代わるがわる電話を掛けてきたようだ


一時期減っていたのだが最近また、ピンクチラシが一階の郵便受けに大量に突っ込まれるため


その苦情の伝言


「ホンマどうにかならんかねぇ!」と怒っていたかと思えば


「こんな年寄りばかりのとこにピンクチラシいらんやろ!・・・あ、あんたは若いなぁガハハ~」と留守電の向こうで大笑い


忙しい人たちやな


そんなわけで、おばあちゃんたちに連絡を入れ


翌日の日曜の朝から、一階の郵便受けを監視することになった


朝からそんなチラシ入れにくる奴、おらん思うけど・・・


翌朝。


俺が見張りだしてから10分置きに、ばあちゃんたちが降りてくる


「来よったか!?」

「捕まえたか!?」


・・・あのね。


まだ朝の9時やから来てないよ~捕まえたら連絡するからね~


そう言うのだが


「ほんまか~?」

「見逃してへんか~?」


そう言って俺のそばを離れようとしない


そのうちピザ屋だか、玄関に現れると


「あいつや!あいつちゃうか!!」と指をさす始末


ビビるピザ屋


そんなこんなで、かれこれ午後5時ぐらいまで監視


俺がたまに部屋に戻る間、ばあちゃんたちが代わりに見張ってくれるのだが


「怖いから早よ戻っといでや!すぐ戻っといでや!・・・1分な!」


短か!・・・トイレも行けんやないですか


結局その日は誰も現れず、監視を終了


翌、月曜の夜、ばあちゃんの1人から電話


「あのな、ええ方法思いついたんよ!会長(俺)の名前、出してええやろか?」


いったい何を思いついたのか


「いい方法あるのならお任せしますから、宜しくお願いしますね」そう言って電話を切った


翌日朝


仕事に出かける際、1階の入口玄関の扉を開けようとして、外側に"何か" 貼ってあるのを発見


表に出て扉を見ると、A3用紙に毛筆で(けっこう達筆)


ピンクチラシのひと 502号室のT会長が

いつもみているぞ みているぞ つかまえるぞ


あ〜名前出すってこういうことね♪( ´▽`)

まあいいや。


・・・夜、帰ってくると、その張り紙は無かった


後日聞くところによると、他の入居者のおじいさんに


「こんな名前出してやめなさい、みっともない。だいいちTさんに許可取ってるの?!」


そう注意されたそうだ

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