第78話 これから宜しくお願いします
「え?え…。こ、婚約者…?」
あまりにも突然のデリクさんの言葉に私は頭が追いつかなかった。当然の事ながら父も母も、そして兄も驚いて言葉を失っている。するとデリクさんが怪訝そうに首を傾げた。
「あの…僕とアンジェラさんは…ニコラスの代わりに婚約者として選ばれたとばかり思っていたのですが…ひょっとすると僕の思い過ごしだったのでしょうか…?」
その声は何処か元気が無いように感じたのは私の気の所為だろうか?
「あ…い、いえ。決してデリクさんの思い過ごしとか言うことでは決して無いのですが…ただ、まだアンジェラと正式に2人の婚約の件について具体的な話し合いも何もしていないですよね?なのでいきなり婚約者に決めて良いものかどうか…」
珍しく父が動揺しながらデリクさんに話をする。
「僕としてはアンジェラさんの事をとても好ましく思っています。アンジェラさんさえよければ、このまま正式に結婚の約束を交わしたいくらいですが…貴女はどう思っていらっしゃいますか?」
そしてデリクさんは私をじっと見つめてきた。
「あ、あの…私は…」
そして顔を赤らめながら父と母、そして兄の顔を順番に見つめるとデリクさんに言った。
「私も…デリクさんの事を…好ましく思っています…」
何故ならデリクさんが私を見つめる視線が…前世で恋人だった彼の視線に似ていたから…。
ゴホンと咳払いすると父が口を開いた。
「成程…アンジェラもデリクさんの事を好いているのであれば…私としてはこのまま2人の婚約の話を進めても良いと思っています。何しろデリクさんはコンラート伯爵が直々に跡継ぎとして養子に選ばれた方ですし…もとよりアンジェラとの婚約を望んでおられましたからね」
すると父の言葉にデリクさんが笑みを浮かべた。
「本当ですか?それでは私とアンジェラさんの婚約…正式に認めて下さるのですね?」
「ま、まぁ…私としては反対する必要はありませんが…」
「僕も…そうですね。何しろアレと貴方では雲泥の差がありますから」
「良かった…ご家族皆さんの許可を頂くこと出来て嬉しいです」
デリクさんは父と母、兄に頭を下げると、私を見た。
「ではアンジェラさん。これからは正式な婚約者として…どうぞ宜しくお願いします」
「は、はい。こちらこそ…よ、宜しくお願い致します…」
私はすっかり赤面しながらデリクさんに頭を下げた―。
****
「今夜は…来てくださってありがとうございました…」
私は今、デリクさんを見送る為に2人だけで門の前に立っていた。街灯の下に照らされたデリクさんの背後には彼が乗ってきた馬が待機している。
「いえ。今夜来たのはアンジェラさんとの婚約の話意外に…確認したい事があったからです」
「確認したい事…?」
一体何を確認したいのだろう?するとデリクさんは突然今迄に無いくらいに真面目な顔をすると尋ねてきた。
「アンジェラさん、僕達…以前何処かでお会いしたことありませんか?」
「え…?」
私は思わずデリクさんをじっと見上げた―。
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