第64話 突然の話
お弁当を覗き込んだデリクさんは目を見開いた。
「これは…変わったお弁当ですね。この三角の食べ物は何ですか?」
え?そっちの反応?
デリクさんの反応に少しだけ落胆してしまった。もし彼が私と同じ世界の前世持ちだったなら、【おにぎり】を見れば、絶対に何らかの反応を示してくれるかと思ったのに…。でも興味を持ってくれたのは嬉しい。
「これは【おにぎり】っていう食べ物なんです。オートミールを煮て、この様に三角の形に握って、周りに塩をまぶしてあります。美味しいですよ」
「そうですね。本当に美味しそうです。早速ですが…頂いてもいいですか?」
デリクさんが遠慮がちに尋ねてきた。
「ええ、どうぞ」
「では…頂きます」
デリクさんはバスケットからおにぎりを取り出すと、早速口に入れた。
「…」
「どうですか?」
一口食べたところで尋ねてみた。
「…美味しい…
凄く美味しいですよ!」
嬉しそうな笑顔を私に向けてきた。
「良かったです、気に入って頂けて」
そして私とデリクさんは2人でランチタイムを楽しんだ―。
****
午後1時―
「すみません、それではそろそろお暇しますね。これから少し用事がありますので」
デリクさんが立ち上がったので、私も慌てて立ち上がった。
「あ、そうなのですか?すみません。用事がある日だったのに、こちらに寄って頂きありがとうございます」
頭を下げた。
「い、いえ。そんな…どうぞ頭を上げて下さい。アンジェラさんとの約束の方が先約だったのですから。昨夜、突然予定が入ってしまったんですよ。本当はもう少し長くこちらにいたかったのですけど」
「え?」
その言葉に胸がドキリとした。
「アンジェラさん、オープンの日…また伺いますね。その時は是非何か買わせて下さい」
「あ、は・はい!お待ちしておりますっ!」
頭を下げると、デリクさんは「それでは」と言ってお店を出て行った。
パタン…
扉がしまると、途端に店の中がシンと静まり返る。
「…パッチワークの続きでもしようかしら…」
作りかけのパッチワークを広げると、再び私は針仕事を始めた。ジムさんの迎えが来るその時間まで―。
****
ボーン
ボーン
ポーン
17時になるようにセットしておいた振り子時計が時を知らせる鐘の音を奏でた。
「あ、もうこんな時間だったのね?」
気付けば夢中になってパッチワークをしており、気付いたときには10枚のクロスが出来上がっていた。
「ジムさんはもう来ているかしら?」
窓の外を眺めると、丁度1台の馬車がこちらへ向かって走って来るのが目に止まった。
「あ、来たようだわ」
手早く持ってきた荷物全てをリュックにしまい、忘れ物がないかチェックをすると私は店の外に出た。
「アンジェラ様。お迎えにあがりました」
すると丁度馬車が目の前で停車し、ジムさんが私に声を掛けてきた。
「ありがとう、ジムさん。今戸締まりをするから待っていてね」
「はい、お待ちしております」
ガチャッ
鍵を掛け終えて振り向き、驚いた。何と馬車の中には私に向かって手を振る父の姿があったからだ。
「お父様っ?!」
慌てて馬車に駆け寄り、扉を開けると父が笑みを浮かべて私に手を差し出してきた。
「お帰り、アンジェラ」
「は、はい…お父様」
エスコートされて馬車に乗ると父は扉を閉めた。するとすぐに馬車は音を立てて走り始めた。
「驚きました。まさかお父様が馬車に乗っていらっしゃるとは夢にも思いませんでしたので…。ひょっとすると今までコンラート家にいらしたのですか?」
「うむ…そうなのだよ。ちょっと色々と話があってな…」
「そうなのですか?」
「実はニコラス様の件なのだが…最初にアンジェラの耳に入れておこうと思ってね」
「分かりました。どの様な事でしょうか?」
「ニコラス様は…昨日、伯爵から廃嫡処分を受けたよ。学校も退学する事が決定したらしい」
「え…?」
昨日の今日でいきなりの衝撃的内容に私は息を飲んだ―。
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