第39話 焦るパメラの父
物乞い…兄は明らかにカチンとした顔をしたが、黙っていた。
「いえいえ。私共は物乞い等ではありません。実は私どもは最近此方に越して来た者で、ご近所の方々にご挨拶に回っているのです」
父の言葉にウッド氏は頷いた。
「成程…道理で見かけない顔だと思った。それにしても…」
ウッド氏は私達を不躾なくらいジロジロ見るとまたもや失礼な事を言ってきた。
「随分と貧相な身なりだから物乞いと思ったわ。それじゃ挨拶も済んだのなら帰ってくれ」
私達をシッシッと追い払う仕草をする。全く何という人物なのだろう?人を身なりだけで見下すような態度は正直言って不快でならない。
「あ、待って下さい。ついでと言っては何ですが…実は仕事を探しているのです。こちらでは募集はされているのでしょうか?お見受けした所…この農園の経営をされている方ですよね?」
「ああ…そうだが…何だ?仕事を探しているのかね?」
途端にウッド氏は私達を値踏みするような目で見てきた。
「はい、労働希望は息子と私です。2人とも健康と体力には自身が有ります。早急に仕事を探しているのですが…なかなか仕事が見つからなくて正直困り果てていたのです」
それにしても父には驚いた。真顔で嘘をペラペラと並べられるのだから。しかもとても演技には思えないほど迫真に迫っている。
「成程…お前たちは仕事を探しているのか…。まぁそれほど困っているなら雇ってやらない事も無いがな」
「本当ですか?ありがとうございます!」
父は笑みを浮かべて頭を下げる。
「なら、早速明日から…」
ウッド氏が言いかけると父が素早く言葉を重ねた。
「それではすぐに雇用契約書を交わして頂けますか?」
「何?雇用契約書だと?」
ウッド氏の眉が上がる。そう、実は父から馬車の中で聞かされた事なのだがこの農園で働かされている従業員達は即決で採用されているが、どうやら雇用契約書を交わしていないらしいと聞かされていたのだ。
「そ、そんなものは無いが?」
「え?無いのですか?それは困りましたね…。実は借家に住んでいるのですが仕事に就いている証明書がいるのですよ。そこで大家さんから雇用契約書を持ってくるように言われているのです。けれど無いとなると…」
「な、何だ?文句があるならうちでは雇わない。他所に行くことだ」
意地悪そうな表情を浮かべるウッド氏に父は涼しい顔で言った。
「こちらの農園では雇用契約書は無いと農園組合に報告に行かなければなりませんね」
「な、何だとっ?!何故そうなるのだっ?!」
ウッド氏の顔が驚愕に変わる。
「ええ、そうですね。それが良いでしょう」
兄が初めて口を開いた。
「だ、だから理由を説明しろっ!何故組合に報告に行く必要があるのだっ?!」
「いえ、実はこちらの農園を訪れる前に仕事の斡旋をお願い出来ないか農園組合を訪れたのですよ。すると斡旋は出来ないけれども、この辺り一体の農園を教えて頂いたのです。そこで仕事を募集していないか確認してくるように言われたのですが、必ず雇用契約書を交わしてくれる農園で働くように言われていたのです。もし契約書も無しに採用するような農園があれば報告するように言われておりまして」
その言葉にウッド氏は青ざめた。
「わ、分かった!契約書はある!あるのだが…す、少し時間がかかる。1時間…いや、2時間後にまた来れば契約書を用意してやろう。一旦帰ってくれっ!」
ウッド氏は何故か私達を追い返そうとする。
「…分かりました。それでは2時間後にまた伺いますね」
父は言うと、私達に目配せした。
「それでは失礼致します」
「「失礼致します」」
父が挨拶をしたので、私と兄も挨拶をするとウッド氏の事務所を後にした。
****
事務所を出ると父は言った。
「恐らく、雇用契約書など書いたこともないから、どこからか資料を取り寄せるなりしてこれから作成するのだろう」
「ええ、僕もそう思います」
兄が賛同する。
「本当にパメラの父親は酷い人ですね。父娘そっくりです」
私は率直な意見を述べた。
「それでは我々も一旦屋敷に戻ることにしよう。次はいよいよ仕上げだ。派手な演出をするとしよう」
そして父は嬉しそうに笑った―。
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