第18話 パメラの評価

「ふぅ〜…やっと帰ってくれたか」


ニコラス親子が去っていくと父がため息を付いた。


「全く…貴重な家族団らんの時間を潰されてしまったわね」


母が壁に掛けてある時計を見ると、既に22時になろうとしていた。


「それにしても本当にニコラスは馬鹿な男だね。彼はかなり短気だからすぐに約束は破られるんじゃないかな?」


兄が肩をすくめながら言う。


「ええ、私もそう思います。おまけにニコラスは私の事を毛嫌いしているので、わざと私から婚約破棄を告げさせるような事をしてくるかもしれませんね。何しろ大切な幼馴染がいるのですから」


でもその時は大勢の学生たちの見ている前で婚約破棄を告げるつもりだ。


私の言葉に父が言った。


「ああ、確か幼馴染の名はパメラとか言う名前だったかな?でも、ニコラス様がその幼馴染と婚約する事は決して無いはずだよ。何しろ生意気な平民の娘がニコラスに付きまとって困ると話していたからね。」


「え?そうなのですか?」


知らなかった。伯爵はパメラの事を以前から嫌っていたなんて。にも関わらずパメラとニコラスはあんなに堂々と2人で一緒にいるとは…。

では、私が仮にパメラに今迄された事を伯爵に報告すればパメラはどうなるだろう?


尤もあの2人が私に嫌がらせをする為に関わって来さえしなければ、もうどうでも良い話ではあるけれども。


何しろ私は色々と忙しい人間なのだから、彼らの為に無駄な時間を費やしたくは無かった。


「お父様、お母様、お兄様。そろそろ失礼して私は先に部屋に帰って休ませて頂きます」


ガタンと椅子から立ち上がると私は言った。


「ああ、分かったよ。おやすみアンジェラ」

「おやすみなさい」

「おやすみ」


父、母、兄が次々と声を掛けて来る。私はもう一度家族に挨拶を返すと部屋を後にした―。




****



「アンジェラ様。まだお休みにならないのですか?」


自室に戻り、針仕事ををしているとベッドメイクをしていたミルバが声を掛けてきた。


「ええ、後少しだけ、これだけ仕上げたらもう寝るわ」


縫い物をしながら返事をする。


「今度は何を作っていらっしゃるのですか?」


ミルバが私の手元を覗き込むように尋ねてきた。


「フフフ…これはペン立てよ」


「え?ペン立てですか?でもペン立てと言ったら普通は木製かブリキ製ですよね?それが布で作れるのですか?」


「ええ、そうよ。実はね、この布は船の帆で使われている布なのよ。厚みがあって頑丈だからこれを箱型の長方形に仕立てるのよ。これが外布になって、内布はきれいな布地で作って縫い合わせれば、素敵でしょう?…よし、完成!」


糸端を結んでハサミで切ると出来上がった手のひらサイズのペン立てをミルバに見せた。


「どう?可愛らしいでしょう?しかも軽いし、口の部分を折り曲げることも出来るから長さを変えることも出来るのよ。こうすればペン立て以外にも小物入れとして使えるでしょう?それに使わない時は布地で出来ているから薄く畳めるの。持ち運びにも便利なのよ」


「ええ、とっても素敵ですね〜これ、絶対に売れますよ!」


ミルバが興奮気味に語る。


「そう?ありがとう。とりあえず5〜6個試しに作って、また納品に行くわ」


時計を見ると、もう23時半になろうとしていた。


「あ、大変!もうこんな時間だわ。ミルバ、もう貴女も休んで」


「はい、分かりました。ではアンジェラ様。また明日伺いますね」


「ええ、おやすみなさい。ミルバ」


「おやすみなさいませ。アンジェラ様」


そしてミルバは部屋を出て行った。


さて、もう少しパッチワークの続きを縫ってから寝ることにしよう。

ニコラスのせいで貴重な時間を奪われてしまったから予定が狂ってしまった。


今、私は半月後に迫る店のオープンの準備で忙しいと言うのに…。


結局、その日は0時になるまで縫い物の作業を続けた―。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る