第14話 来訪者達
20時―
家族揃っての食事が終わり、皆で食後のお茶を楽しんでいた時の事だった。
「旦那様、奥様、少々宜しいでしょうか?」
ベルモンド家筆頭執事の今年60歳になるイクセルが現れた。
「どうしたんだ?イクセル」
エスプレッソを飲んでいた父が尋ねた。
「はい、実はコンラート伯爵夫妻と令息のニコラス様がおいでなのですが…」
「えっ?!」
私は思わず飲んでいたミルクティーをこぼしそうになってしまった。
「ああ…もう伯爵がいらしたのか。まさか本日中にお見えになるとは思わなかったな」
父はゆっくり立ち上がった。
「あ、あの。お父様、一体どう言う事なのですか?今の口ぶりだと、ニコラス様達がいらっしゃる事をご存知だったようですが?」
「ああ、あの騒ぎの後に手紙を書いてメッセンジャーに早馬で知らせておいたのだよ。ニコラス様が娘に手を上げようとしたこと、謝罪が無ければ婚約破棄を申し出て、私は有事の際の伯爵の護衛にはつかないとな」
父は笑みを浮かべながら言う。
若い時、騎士団の団長を務めていた父は引退した今も鍛錬を続け、その腕前は少しも衰えてはいなかった。その腕を買われ、有事の際はコンラート伯爵の護衛についていたのだ。
「成程、それはなかなか相手を脅迫…いえ、要求を聞き入れてもらうのに有効な手段ですね。では僕からもあまりにもニコラス様が聞き分けの無い事を言って来た際は脅迫…ではなく脅しても良いですよね?」
兄はニコニコしながら言う。
「お兄様、脅迫も脅しも同じ様な意味ですが…あまり過激な事はしないで下さいね。逆恨みされるのも嫌なので」
「そんな事されたらすぐに報告するのよ、アンジェラ。貴女は大切な娘なのだから」
母が心配そうに言う。
「はい、分かりました」
「よし、そろそろ行こうか。あまりお待たせするわけにはいかないからな。伯爵達はどちらにおいでかな?」
父がイクセルに尋ねた。
「応接室にお通ししてございます」
「では行くとするか」
父が立ち上がった。
「お父様、私も同席するべきですよね?」
すると父は少し考えた素振りを見せると言った。
「アンジェラ、お前は応接室の隣りにある控室で待機していなさい。必要に応じた時にお前を呼ぶことにしよう。ただし…お前たち2人は一緒に来るのだぞ?」
父は母と兄を見た。
「ええ、あなた」
「当然ですよ、可愛い妹の為ですから」
「よし、では参るぞ」
「「「はい」」」
私達は家族全員でコンラート伯爵家が待つ応接室へと向かった―。
****
「アンジェラ、お前は私が呼ぶまでこの部屋にいなさい。この鏡はマジックミラーになっているから、ここで様子をみていると良い」
父が小声で説明する。
「はい、分かりました」
壁に取り付けてある鏡をのぞくと、そこにはソファに座るコンラート伯爵夫妻と神妙な顔をしたニコラスの様子が見えた。
「よし、では行ってくるか」
「はい、お父様。行ってらっしゃいませ」
そして父は控室から出ていった。私はマジックミラーの前に椅子を持ってきて中の様子を伺っていると、父と母、兄の3人が応接室へと姿を現した。
「どうもお待たせ致しました。コンラート家の皆様」
父と母、兄が頭を下げた。
これから一体どの様な話がなされるのだろう?
私は固唾をのんで見守ることにした―。
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