第12話 ニコラスの用件

「遅いっ!いつまで待たせるんだっ!」


応接室の近くでニコラスの怒声が響き渡って来た。


「も、申し訳ございません…アンジェラお嬢様はまだ外出中でして…」


オロオロした様子のメイドの声が聞こえて来た。


「だから、そのアンジェラは何所へ出かけたかと聞いているんだっ!」


「そ、それは…大変申し訳ございませんが…本当に知らないのです」


涙交じりのメイドの声が聞こえて来る。御者のジムと家族以外には今日私が何所へ行くかは話していなかったのだ。


「何だとッ?!貴様…使用人のくせに仕事もろくに出来ないようだなっ?!」


「ヒッ!」


メイドの悲鳴交じりの声が聞こえて来た。


もう我慢出来ない…っ!


ドアノブを掴むと、勢いよくドアを開いた。


「お待ち下さいっ!」


部屋の中に飛び込んで驚いた。何と年若い2人のメイドが床の上に座り込み、涙目になってニコラスを見上げていたのだ。


「アンジェラ…ようやく来たのか?一体今まで何所に行っていたっ?!」


ニコラスが私を怒鳴りつけるのを無視し、腰が抜けたかの様に床の上に座り込む2人のメイドに声を掛けた。


「貴女達…大丈夫だった?」


「おい!無視するなっ!」


「あ…アンジェラお嬢様…」

「は、はい…大丈夫です…」


可哀相に。2人のメイド達は余程怖かったのか、目に涙を浮かべてガタガタと震えている。


こんなに怖がらせて…何て酷いことを…。


「アンジェラッ!」


「ニコラス様っ!」


私は今までに無いほど強い口調でニコラスの名を呼んだ。


「な、何だ?そんな大きな声で俺の名を呼ぶとは…一体どういうつもりだ?」


ニコラスは少しだけ狼狽えた表情で私を見た。


「どういうつもり?それはこちらの台詞ですっ!一体何故このように怯えさせるのですかっ?!彼女たちがニコラス様に何か失礼な事でもしましたかっ?!」


「ああ、したな。そこの2人のメイドはお前が何所に行っているのか尋ねても答えられなかったから叱責しただけだ!そもそもお前が屋敷にいないのが悪いっ!一体今まで何所をほっつき歩いていた!」


「私だって色々忙しいのです。それをいちいちニコラス様に報告しなくてはならないのですか?それにメイド達は私が何所へ行ったのか本当に知らないのですよ?彼女たちに行き先を告げないで出掛けていたのですから」


「そうか…なら直接お前に聞くことにしよう。一体今日は何所へ行っていた?」


まるで尋問の様な言い方だ。一応私はニコラスの許婚なのに何故このような態度を取られなければならないのだろう?


「町へ行っていました」


「町へ?何しに行ってたんだ?」


「買い物です」


正直に言うつもりは全く無かった。言えば私の計画台無しにされてまうかもしれない。彼はそう言う男だから。


「買い物?何を買いに行ってたんだ?」


「…何故、そこまで報告しなければならないのですか?私が何所へ行って何を買ってこようが自由ですよね?報告の義務はありません」


流石に我慢の限界だ。


「いいや、あるな。何故なら俺はお前が屋敷に戻ってくるまでここでずっと待たされていたんだ。今日俺がここに来るとは思わなかったのか?」


「はい、少しも思いもしませんでした。ニコラス様は滅多にここへはいらっしゃらないですからね。どうしてそれなのに今日ここへ来ると思うのでしょう?」


「お、お前…今日、自分がパメラに何をしたか分っているのか?あんなに風に怖がらせて泣かせて…挙句に俺が今日お前を引き留めたのに、無視して帰って行っただろう?だからお前に一言行ってやろうと思って訪ねて来たんだっ!それなのに俺を1時間も待たせるとは…どういう事なんだっ!」


ニコラスは顔を真っ赤にさせて怒りを私にぶつけて来た―。

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