第71話 妖精王国との交渉




 妖精王国フィンブル・ヘイム。

 そこは深い森の中にある国だ。

 無論、建物は木造建築。

 ログハウスのような建物が多く建築家ではないのだが、その出来には驚いた。


 上を見れば、妖精の羽から発せられる粉の塊が浮いていた。

『妖精粉』は生命を急激に成長させたり治したりする効果があり植物も例外ではない。

 だからこそ人魔大陸でも、ここまで潤った土地が成り立っているのだ。


 しかし人族はこの奇跡に等しい、神秘的な力を独占したいがために妖精狩りをしていると聞く。

 現在進行形でだ。

 そのため妖精はこうやって隠れるように住んでいるのだ。




「ふぅ、また迷惑をかけてしまって申し訳ない。妖精は気まぐれでね、ちょっぴり思い付いたことでも躍起になって行動に移しちゃうんだ」


 中でも一際巨大な樹木の内装は、豪華な造りになっていた。

 まるで貴族の屋敷にでもいるかのような感じだ。 

 そう思っていると謁見の間に到着した。

 玉座には誰も座っていない。

 代わりにアレンがどっしりと座った。

 そして偉そうに足を組み、こちらを見下ろしてきた。


「私の国へようこそ、旅人たちよ」


 そうだ、コイツ王様だった。

 実感はないけど、とりあえず四人で頭を垂れる。


「お目にかかれて光栄でございます妖精王よ。我々はここから大陸の反対側に位置する、理想郷という発展中の国からやってきました」


 あれぇ、シャレムさん?

 そんな丁寧な喋り方もできたのですか?

 俺だけではない、エリーシャもゴエディアも驚きの表情を浮かべていた。


 なんか、アレなので俺は喋らないことにした。


「へぇ、何故に私の国まで?」


「我々の国は戦争などで難民となった人々の受け入れをしております。人族や魔族、故郷を失った者に手を差し伸べるという活動を行っていましたが、恥ずかしながら住処を求めやってきた人間はあまりにも多く、他国からの支援がなければ続けることが困難となっている現状です」

 

「なるほど読めてきた。近いうちやってくる資源不足を回避するため、妖精王国に助けを求めに来たってことでいいんだよね?」


 アレンは身を乗り出し聞いてきた。

 シャレムは立場を弁えながら、話を続けた。


「左様です。偉大なる妖精王の力添えが欲しく遥々、大陸を横断してきました。どうか我々に救いの手を」


 そう言ってシャレムは深々と頭を下げた。

 アレンは顎に手をやりながら数秒だけ考えるようにして、側にいた護衛のように立っている青年に意見を求めた。


「と言っているけど君はどう思う? せっかくの安寧を捨ててまでわざわざ手を貸す道理が、私たちにあると思うかい?」


「ありません! 人族と魔族は信用できません!」


「だってさ」 


 やれやれとため息を吐きながらアレンにふたたび視線を戻した。

 頑張れシャレム、お前ならできる。 

 賢者ならこの程度の交渉、勝ち取ってみせろ。


「そ、そこをどーか……お願いしやすよ旦那ぁ……ふへへ」


 終わった。

 シャレムがニートピア状態に戻ってしまったら相手を納得させる交渉なんて出来るはずがない。

 理想郷のみんな、だらしないロベリアですまない。


「いいよ、それなら」


 アレンはあっさり指で丸を作ってくれた。

 うぉぉお、前触れのない逆転劇!

 まさかの承諾がくるとは思わず、指の形も相まってアレンが仏のように見えてしまった。


「陛下! 人間の頼みごとを安易に了承してはなりません!」


「そうです! 考え直してください!」


「殺しますよ!?」


 アレンの玉座に控えていた妖精たちが続々と集まり王様を脅しはじめていた。

 上下関係緩いなこの国。


「待て待て、なにもタダで援助する気はないよ。傲慢の魔術師、直接君の口から訊きたい。私が手を貸したときの見返りが何なのかを!」


 今度は、こちら側に話が振られた。

 確かに無償で動くわけにはいかないよな。

 妖精王が援助してくれるということは、すなわち同盟国に等しい間柄になるのだ。


 それを維持するための見返りが必要だ。

 簡単にいえば助け合い、ギブアンドテイクだ。

 さて、妖精王国に必要なものが何なのか。

 単純だ。


 もう事前に調べはついている―――


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