最も嫌われている最凶の悪役に転生《コミカライズ連載中》

第60話 最強の十二人

　この世界では、十二人の最強が存在する。

　アズベル大陸。

　リグレル王国南部のオリンピア高原に、小高い時計塔がポツリと佇んでいる。

　時計の数字の一つ一つ、その隣には称号が刻まれていた。

　１２刻　―――帝国の鬼人　

　１１刻　―――炎帝　

　１０刻　―――妖精王　

　　９刻　―――氷結の魔女　

　　８刻　―――聖剣士

　　７刻　―――傲慢の魔術師　

　　６刻　―――血女

　　５刻　―――古の巨人

　　４刻　―――魔王

　　３刻　―――魔人神

　　２刻　―――人類神

　　１刻　―――星の意志

　彼等を『銀針（ぎんしん）の十二強将』と呼ぶ。

　―――――

　妖精王国への同盟交渉は俺とエリーシャ他含めて計四人で行くことになった。

　メンバーは幾度も繰り返された会議の末、俺が選んだある二名で決定された。

「僕を連れていきたいっテ～？」

　与えられた家を散らかしまくって、だらしなく床の上で寝転んでいる、猫耳と尻尾を生やした無気力な女性が天井を仰いでいた。

　服装もまともに着ておらず下は下着だ。

　なんなんだ、このニート女は。

「ああ、俺が貴様を選んだ。仕事もせず、ダラダラ生活するのは今日でお終いだ」

「ロベリアさんよぉ！　いくらなんでもそれはないよぉ……！　せっかく築き上げてきたユートピアを手放すなんざ、僕に死ねって言っているようなもんだぜぇ？」

　ニートピアの間違いだろ。

　理想郷に流れ着く人達のほとんどは戦争で故郷を失った難民ばかりなのだが、まさか中に働くことを拒んで、寄生する輩がいたとは。

　町の連中もコイツを甘やかしているのも、もう一つの問題である。

「シャレム、俺の故郷には働かざる者食うべからずという言葉がある」　

「おぉ」

「明日までに荷物を纏めておけ。四六時中ぐーだらしている奴を養えるほど、理想郷に余裕はないからな」　

「っ！？　ま、待ちたまえ！　それはちょいと厳しすぎやしないカ！？」

「……」

　黙って部屋から出ようとする。

　別に、本当に追い出すつもりはない。

　ここでコイツを追い出したら、コイツは行き場を失うことになるだろう。

　こうやって厳しくしているのは、今回の遠征にはどうしてもコイツが必要だからである。

「わ、わーった！　分かったってよ！　その交渉とやらに付き合ってやるから、可哀想な僕を見捨てないでくれたまえ！」

　足を止め、彼女の方へと怪訝そうな顔を向ける。

　追い出されると思って、今までにないぐらい慌てていた。

　脅しすぎはよくないけど、周りが頑張っているのに一人だけニート生活は許容できない。

「本当だろうな？」

「あ、ああ、勿論だとも。しかし人魔大陸を横断するとなると、命を落としちまう可能性もあるってことじゃん？　僕ぁ、死にたくないぞ？」

「安心しろ。そのためにもう一人、守りに特化した奴も連れていくつもりだ。貴様は何も気にせず頭だけ使っていれば、それでいい」

「うぅ……分かったよ」

　賢者シャレムが仲間に加わった。

　意外だが、この女は賢者なのだ。

　俺よりも頭が良い、賢いニートなのだ。

　――――

　理想郷の広場にある花畑に行くと、そこには二メートル以上もの身長を持つ大男が、道の端っこに座り込んでいた。

　よく見ると、花と戯れている。

「ろべりあ。おはよう」

　こちらに気づくと、物凄い穏やかな表情と声で挨拶をしてきた。

　巨体なのに、なぜか性格と語彙が子供のような男である。

「……ああ、今なにしている？」

「お花さんと、遊んでるよ」

「……そうか」

　大男の隣に屈み、同じように花畑を眺める。

　たしかに綺麗だけど、それだけで、それ以上の感情は湧いてこない。

　植物は友達より、薬剤師でもある俺にとって薬にできるかどうか、それが一番重要だった。

「邪魔してすまないなゴエディア……実は頼み事があってな、少しの間いいか？」

「うん、いいよ、オデなんでも聞くけど」

「助かる」

　心よく了承してくれたのでゴエディアに理想郷の現状と解決策を説明する。

　妖精王国が人魔大陸の反対側にあるため、交渉するメンバーに加わってほしいこと洗いざらい説明する。

　すると彼は、何も言わずに立ち上がり、考え込むように俯いてしまう。

　迷っているようにも見えた。

「……」

「無理なら別に構わない」

「無理じゃない。ろべりあ、言うこと正しい。みんな助けるのは良いこと」

「なら、付いてきてくれるか？」

「町の子供たち心配。オデ、守れないの不安」

　なるほど、彼がどうして迷っていたのか、分かってきたぞ。

　旅に同行するのはいいが自分が町を離れることで子供たちを守れなくなることを心配しているのか。

　やっぱり優しいなぁ、話していると和んでくる。

「貴様の代理なら、他に用意した」

「他の人、守れる？」

「ああ、俺が保証しよう」

　ボロスのことである。

　戦力的にあいつしか頼れないんだよな。

　だけどゴエディアは納得したように頷いてくれた。

「なら旅、一緒に行く。ろべりあ、嘘つかない」

　鉄壁の守護神ゴエディアが仲間に加わった。

　元々、彼はとある国王直属の護衛を務めていたらしい。(本人はあまり覚えていない)

　守ることに特化しており、国を囲む城壁よりも堅く、鉄壁と呼ばれるほどだったらしい。(そんな夢を見ていたらしい)

　王国の内戦に巻き込まれて、理想郷に流れ着いてしまったらしいが。

　まあ、とりあえず苦い過去は置いといて。

　妖精王国フィンブル・ヘイムに行くメンバーが揃った。俺、エリーシャ、シャレム、ゴエディアの四人。

　準備を整え次第、出発である。