第44話 平穏の終わり
もう一か月が経過した。
現在、
木剣を握りしめた、エリーシャと立ち合いをしていた。
凄まじい速度の斬撃。
硬質化した素手で受け止める。
そして弾き、受け流す。
そのままカウンターを放つが、すでに彼女は防御態勢へと移行していた。
気づいたら、こちらの攻撃も受け流されていた。
剣を握りしめたばかりの素人の動きではなかった。
自分よりも体格の大きい相手の重心をぶらしたのだ。
あまりにも器用すぎる。
「はあっ!!」
頭上めがけて、木剣を振り下ろされる。
瞬時に横へと飛び回避を試みる。
しかし彼女はそれを見計らっていたのか、木剣をいったん宙で離し、もう片方の手で掴んだ。
横なぎが繰りだされ、驚く。
木剣のリーチ内にいる、これでは一本とられてしまう。
「……やるな、エリーシャ」
小さく笑いながら、エリーシャの木剣を素早く叩き落とす。
木剣が床を転がる。
それを拾おうとした彼女の額に、強烈なデコピンをお見舞いする。
「また今日も、一本取れなかったぁ」
額をおさえながら悔しそうに、エリーシャは言った。
ロベリアが異常なだけで彼女はちゃんと成長している。
切り替えの早さ、武器の持ち替え。
これを器用に繰り出してきたエリーシャは誰が言おうと、もう一人前だ。
そこらの剣士では歯が立たないほどまで強くなっている。
「朝の鍛錬は終わりだ……飯にするぞ」
「あ、うん!」
大量の汗を流したエリーシャは道場の隣にある水浴び場で、汗を洗い流しに行った。
俺も多少だが汗をかいてしまったので濡らした布で体を拭く。
そうして準備を終え、俺たちは家に帰った。
庭にテーブルを運び出し、料理を並べる。
数分後、いつもの三人トリオがやってきた。
「ロベリ師匠! おっはよー!」
「エリさんも、おはようございます!」
「二人とも、あんまりはしゃがないでよ……恥ずかしい」
お腹を空かせたアルスとジェシカは涎を垂らし、二人がつまみ食いをしないよう見張るルイ。
いつもの光景だ。
初めは魔術を教えるだけだったのに、こうして食卓を囲む関係になっていた。
悪くない、寧ろ心地良いとまで言える。
食事を終え。
元気溢れる三人の魔術の稽古を始める。
魔力の扱いが上手くなった三人には中級〜上級程の魔術を教えていた。
アルスは規模のデカい魔術を教えるよう所望していたが、慣れていない内にそんなもの教えたら大災害になってしまう。
それに魔力枯渇という避けられない問題もある。
そう易々と教えるわけにもいかない。
弟子達の稽古を終わらせ、午後には仕事を始める。
これといった仕事はないのだが、町の拡大を手伝ったり、作物の様子を見たり、狩りに出かけたり、リーゲルに近況を聞いたり会議したりと、まあ忙しい。
いつものことだ。
いつもの日常だが、悪い気はしない。
これが俺の求めていた平穏かもしれない。
理想郷はいつしか、人魔大陸で最も豊かで安全な場所になるだろう。
付き合えるところまで付き合うつもりだ。
———だが、それは突然やってきた。
海から一隻の大型船が、やってきたのだ。
旗には英傑の騎士団のシンボルが記されていた。
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