第39話 四人の弟子



「新しい仲間が増えるから挨拶に来たんだよ! で、来てみたら美味しそうな食い物を作っていたから、腹が減った!」


 大きな声でハキハキと喋るのは、茶髪のわんぱく小僧アルス。

 頬には切り傷が付いており、将来はきっと熱血な青年へと進化を遂げるだろう。


「うん、焼いたり茹でたり、味の薄い料理ばかりで飽きてたから、美味しかった!」


 ボロボロのクマの縫いぐるみを抱きしめている赤毛の女の子がジェシカ。

 律儀にも頭を下げてきた。


 子供なのだからそこまで改まらなくてもいいのに。


「仕方ないよ。支援物資を輸送する船が三か月前から来なくなっちゃったから我慢するしかないよ」


 賢そうな黒髪の少年ルイは肩を落としながら言った。耳が長く、たぶん魔族だろう。


 彼の発言に、目を細める。

 三ヶ月も支援が途切れているとは。

 想像していたよりも過酷な状況なのかもしれない。


「……チッ」


 思わず舌打ちをしてしまった。

 勿論、これを招いた勇者ラインハル様に対してだ。


「一つ聞こう、貴様らは勇者をどう思っている?」


「偽善」

「屑」

「諸悪の根源」


「……フフッ」


 ふはは、滅茶苦茶嫌われているなアイツ。

 愉快愉快、と小さく笑いながら膝を叩く。




「……むぅううう」


 想い人への酷評に、エリーシャが落ち込んでいた。

 まあ、当然といえば当然だよな。


 しかし、勘違いしてはならないことが一点。


 実は、ラインハルも理想郷の現状を分かっていないことだ。


 『魔族』を含めての支援活動を世間はあまりよく思っていない。

 賛同しない団体があまりにも多く、支援物資の輸送が断ち切られる可能性は元々あったのだ。


 加えてアズベル大陸(人族の大陸)からこの人魔大陸までの航路はかなり過酷なものとなっている。


 普通の船じゃ渡るには難しすぎる海域を抜けなければ辿り着けないため、命を落としてしまう危険性があるのだ。


 支援物資の輸送頻度が落ちるのも、よくよく考えれば納得はできる。


 しかし『理想郷』の状況が悪化しているにも関わらず、今もなお大々的に安全安心と公言されていることが問題なのだ。

 それが許せない。


 何処かで同じように故郷を失った人間がここに流れ込み、理想郷とやらが偽りであることを突きつけられたら、それはもう絶望以外のなにものでもないだろう。


 だからこそ終止符を打たなければならない。

 この『偽りの理想郷』に。



「おい餓鬼ども、力が欲しいか?」


 ザ・悪役が口にしそうな怪しい質問だな。

 この質問にイエスと答えた瞬間、力を得る代わりに命の半分を差し出せとかいう割に合わない契約を交わされ、最初こそは上手くいくのだが後半から徐々に落ちぶれていく、あのパターンだ。


「「「欲しい!!」」」


 アルス・ジェシカ・ルイ、三人の声が重なる。

 普段から仲の良い証拠だ。


「それじゃ、つまり私は姉弟子ってことかしら?」


 三人も弟妹弟子が出来たようでエリーシャは嬉しそうだった。


 やはり、こういう形って憧れるよな。

 いや、別に誰かの師匠になるつもりはなく、生きる術ってやつを教えるだけだ。


 この三人を筆頭に、与えた力や知識がほかの住人にも広まれば、過酷なこの現状を打破できるかもしれない。


 そうすれば近い将来、勇者たちの助けなんて必要ない、真の理想郷と呼べる場所に生まれ変わるかもしれない。



 手始めに、この三人を鍛えることからスタートしよう。

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