第35話 死滅槍



 エリーシャの足跡を辿っていたが、途中で途切れていた。

 まるで忽然と消えたかのように、止まった位置から続く足跡が何処にも見当たらない。

 となると、これは罠にひっかかったのかもしれない。


 此処に来るまでの道のり、魔物との遭遇がいつもより高かった。

 特にBからA級までの強力な魔物ばかりだ。

 とてもじゃないがエリーシャのような非戦闘の女の子が、呑気にお散歩できるような道のりではなかった。


(こりゃ、誘導されていたのかもな)


 彼女の足跡が途切れていた地面の底に、迷宮があるのかもしれない。

 そして、その迷宮には、この砂漠の一部を統率している主がおり自分の元までエリーシャを誘導させた、となると此処まで無事に彼女が歩いてこられたワケに説明がつく。


 黒魔術の魔導書を取り出し詠唱をする。

 そして、地中に何層も穴があけられるほどの強力な魔術を叩きつける。


呪打撃カースブレイク

 強度を上げた黒魔力を直接ぶつける攻撃魔術。

 威力は6段階あり、段階3の威力で地面を叩き割る。


 予想通り、地面に空いた穴の中には人工的に作られたかのような石造りの通路があった。

 人魔大陸にはかつて文明があったため、そこまで珍しい発見ではないので、いちいち驚いたりはしない。


「誘導をされているのなら、目指すべきはボス部屋か」


 ゲーム脳の俺にとっては、この程度の迷宮などイージーモード。

 人魔大陸の迷宮など現実では何度も周回してきたわい!


 迷宮に侵入すると、俺の存在を察知したのかゾロゾロと魔物の群れが集まってきた。

 凄腕の冒険者でも一匹を倒すにはかなり苦労する魔物ばかりだ。

 良い機会だ。

 溜まっていた怒りを、コイツらにぶつけよう。


「……ふふ」


 指の関節を鳴らしながら、忘れかけていた穏やかな笑みを浮かべる。

 ストレス解消には打ってつけの肉壁どもだ。







 ――――







 息の根を止めた魔物の亡骸を引きずりながら、迷宮の最深部であろう場所に辿りついた。

 だが俺を待ち受けていたのは固く閉ざされた扉だ。


 手に持っていた魔物に魔力をこめ、全力で扉に投げつけるがビクともしなかった。

 亡骸はべちゃりと扉に張り付いてから、床へとゆっくりと落下していった。

 南無阿……なんだっけ、まあいいか。


「たす……て」


 中から悲鳴が聞こえた。

 間違いなくエリーシャの声だった。

 間に合ってよかったと思いながら、片手にありったけの黒魔力を込める。


 いつもの二倍の威力【衝撃ショック】で扉を吹き飛ばす。

 鈍い音ともに飛ばされた扉が広間の地面に突き刺さる。中にいる者も巻き込まれていたかもしれないが悠長に考えている場合ではなかった。


 エリーシャだ。

 魔物、いやもっと上位の化物、魔獣に捕まっていた。

 無数の手に掴まれ、身動きが取れなくなっている。それをいい事に魔獣は今まさにエリーシャを食べようとしていた。


 この距離なら———届く!!



「……まったく、世話の焼ける女だ」


虚無炎斬ブラック・セイバー】風の斬撃に黒い炎を纏わせた、俺のオリジナル魔術である。

 通常の魔術と、黒魔術を混合させた攻撃でエリーシャを掴んでいた魔獣の腕を切り落としていく。


 五本、切り落としたことで解放されたエリーシャを抱き込み、魔獣に更なる追撃を仕掛ける。


凶雷きょうらい


『ギャァアアアアアアア!!!!!!』


 漆黒の雷が魔獣を感電させる。

 奴が動けないうちにエリーシャを出口付近に下ろす。


「ろ、ロベリアさん、ごめんなさ……あぐっ」


 ちょい強めのデコピンをお見舞いする。

 危険な土地だということは何度も説明したというのに、一人で勝手に行動をからだ。

 人に対してあまり怒ったことのない俺でも、これは流石にイラっとした。


 けど、仲間達のいない環境で不安になっている彼女を脅すようなことをした俺にも非はあったかもしれない。


「……話は、後だ」


 まずはエリーシャをここまで誘導した魔獣の対処が先だ。

 たとえ迷宮の奥底から動かない魔獣であろうと、この先人類の脅威に成りかねない存在はできるだけ排除しておきたい。


 S級魔獣『ゴア・グロス』。

 気持ちの悪い外見をしており、なるべく触りたくないので一撃で終わらせよう。



 黒魔術の魔導書。

 半分あたりのページを開く。

 そこに綴られているのは【虚構獄門】と並ぶ威力を持った一撃必殺の魔術である。


死滅槍デッドエンド・ボルグ

 眼前に歪な形をした禍々しい槍が顕現する。

 更に威力を上げるため、底が尽きてしまうほどの黒魔力を体内から死滅槍へと吸収させる。

 

「———終わりだ」


 一直線に、槍は魔獣を貫いた。

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