第4話 衰え
「無様ね我が騎士」
荷物からボロ布をとりだし、丁寧に刃に付着した返り血を拭っていたローガンに、エミーリアは嘲るようにそういった。
「まったくおっしゃる通り……ふがいない姿を見せてしまい申しわけございません」
深々と頭を下げるローガンに、エミーリアはひらひらと手を振った。
「許すわ。しばらく実戦を離れていただろうし、多少の衰えは想定の範囲よ」
「まったく、年とは怖いものですな。まさかこの私が人の細首ひとつはね飛ばせないとは……」
先程の戦闘は、ほんの十秒ほどで決着した。
しかし、ローガンにとっては満足のいかないものだったらしい。
かつては自分の手足のように自由自在に動かせていた剣を、まさか ”重い” と感じる日がくるなんて、思いもしなかったのだ。
「先を急ぐわよ。こんなつまらない事で時間をとられたくない」
「御意」
◇
中央大陸の端、海に面した都市カルム。
騎士の国、フスティシア王国の領土であるこの都市は貿易と漁業を中心に多いな賑わいを見せている。
貿易を生業としている都市なだけあり、都市へ入るための関所なども緩く、ほとんどの人間は問題なくなかへ入ることができた。
頭の角を隠すため、大きめのフードを被ったエミーリアは、何の問題も無く通過することが出来た関所を振り返り、肩をすくめた。
「門番がザルね。もっと苦労するかと思ったのだけれど……」
「カルムは貿易を生業としている都市ですから。いちいち門で人を止めていては効率が悪いのです。ですから、パッと見ただけでわかる異業種以外は簡単に入ることができますな」
「……その割には治安は悪く無さそうだけど?」
ぐるりと周囲を見回して、エミーリアはそう呟く。
あれだけ警備がザルであれば、犯罪者など入り放題だろう。それなのに道行く人々は笑顔で、街には活気が溢れている。
ローガンは苦笑した。
「表通りの治安は良いといえるでしょうな。フスティシア王国から派遣された騎士が定期的に巡回をしています故……どんな豪気な犯罪者でも、世界最強の騎士団を敵に回す気概はありますまい。その代わり裏通りは凄いものですよ?」
「ふむ……まあ、表通りの治安が良いだけ都市としては上等ね」
「はい、それに我々の目的を考えればこの都市は理想的とも言えます……ちょいと裏通りに入れば、人間に恨みを持っている犯罪者の情報なんて簡単に手に入りますから」
「なるほど、では早速行きましょうか?」
やる気を見せるエミーリアに、ローガンは少し困ったような表情を浮かべた。
「……やはり主よ、表通りで待っていただくことはできませんか? その背格好で裏通りを闊歩するとなると、無用なトラブルを起こしかねない」
誇り高き竜族の末裔とはいえ、今のエミーリアはか弱い少女の姿をしている。そんな彼女が犯罪者が闊歩する場所にいけばどうなるのか、想像するのは簡単だった。
「くどいぞ我が騎士。待つのは性に合わないと言ったでしょう? どうせ相手は犯罪者……遠慮無く力の差を見せつけてやりなさい」
「……仰せのままに」
そして二人は、華やかな都市の表舞台に背を向け、犯罪者の跋扈する闇の世界へと足を踏み入れるのだった。
◇
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