第7話 私の教育係
「お待たせしてしまい申し訳ありませんでした」
それから翌日、深々とコルクスが頭を下げたのは、屋敷に来て直後のことだった。
「え、えっと頭を上げてくれないかしら……」
「マーシェルの言う通りだ。それじゃ話もできない」
私とアイフォードは咄嗟にそう声をかけるが、それでもコルクスが頭を上げることはなかった。
そのままの状態でさらに告げる。
「……いえ、これまで散々迷惑をかけてきた身でありながら、自分からした約束も破る始末。いかように処分されても文句はありません。それ以前にも、奥……マーシェル様に関してはこれまでの言動、行動に関してどうお詫びすればよろしいのか」
そう真剣そのものな表情で告げるアイフォードに、私は思わず苦笑していた。
本当に変わらないと思ってしまって。
確かに、屋敷でのコルクスは以上に厳しい人間だった。
これまで家のことをしてきたとはいえ、それ以外は全くできない私に様々なことをスパルタで教えたのは彼だ。
けれどそれは、ただ彼は私に特別に厳しくした訳でないのを私は理解していた。
何せコルクスは誰にも厳しく、自分にも厳しいそれだけの人間なのだから。
そして、その厳しさの裏には私に対する優しさがあることも私は理解していた。
あの侯爵家の中、メイリなどの味方が全くいない時もあった。
そんな中でも、コルクスだけは、私になにがあっても守ってくれた。
それどころか、自分の時間さえ削って私の教育を行ってくれた程。
その時、コルクスという味方がなければ、私が陰の侯爵家主人など呼ばれる未来はなかっただろう。
それだけやりながらも、かつて正式に侯爵家当主夫人となった時、コルクスは私に辛く当たったなんて謝りにきたことがあって。
「ふふ」
その時の姿が、目の前のコルクスと重なり私は思わずそう笑っていた。
「……マーシェル様?」
私の反応が想像と違ったからかコルクスが怪訝そうな表情を浮かべる。
その顔を見ながら、私は思う。
コルクスの対応があの時と同じなら、私のとるべき行動は決まっていると。
「いいえ、私が貴方に抱いているのは感謝よ。これまで、侯爵家の人間でありながら、私を支えてくれたことに対しての」
そう、コルクスが私にしてくれたことはそれだけでなかった。
私が侯爵家夫人となった後も、コルクスは私に全力で力を買してくれた。
もちろん、その厳しさは変わらず様々なきついことも言われたりした。
それでも、最後までコルクスは私のそばで、親身に成長を見守ってくれた人間だった。
「ありがとう、コルクス」
だから、その言葉を私が口にするのに何のためらいはなかった。
そんな私に、コルクスは苦笑を浮かべた。
「相変わらずお人好しですな、マーシェル様」
「……貴方には言われたくはないわね」
その言葉に、私は思わずそう告げていた。
あの先代当主を信じ最後まで添い遂げ、アイフォードが騎士になったときにも尽力し、他家で冷遇された私の教育を付きっきりで行った人間がなにを言っているのだろうか。
とは言っても、素直にその話をコルクスは聞くことはないだろう。
それを知っているが故に、私は別方向から責めることができた。
「まあ、とにかくこうして愛しの旦那様と巡り合わせてくれたことを私は感謝しているんだから」
──そうして次の瞬間、私はアイフォードの腕にすがりついた。
◇◇◇
昨日は更新休んでしまい申し訳ありません!
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