第4話 想定外の反応
想像もしない事態に、私は思わず固まる。
騒いでいるせいで足音に気づかなかったと瞬時に私は悟るが、その時すでに遅かった。
……何せ、アイフォードの声はこの場にいる全員に聞こえているのだから。
次の瞬間、私は反射的にメイリの方へと目を向ける。
その時、メイリの顔に浮かんでいたのは、かけらの曇りも見あたらない満面の笑顔だった。
そしてその笑顔のまま、メイリは口を開く。
「どうぞ、入ってください。アイフォード様」
そんなメイリの取った手段に、私の顔から血の気が引く。
本来そんなことを考える暇もなく、声を出すべきだったのに。
……しかし、もう全てが手遅れだった。
「どうしてメイリが許可してるんだか」
私の目の前で、どんどんと扉が開いていく。
アイフォードは疑問を抱きつつも、それ以上の何かを感じることはなく扉を開け放つ。
あけ開かれる扉を見ながら、私の胸にあったのはどうしようもない危機感だった。
メイリの言うとおり、私も自分のアピールが控えめだという自覚はあった。
それでも、明らかにアイフォードの反応は淡泊だった。
今回も同じ反応を取られる未来しか私には想像できなかった。
故に少しでも身体を隠そうと両手で身体を抱える私を余所に、扉が大きく開け放たれ……私とアイフォードの目があう。
「はぁ!? な、マーシェル!?」
──そして、今まで見たことのないくらい取り乱した姿をアイフォードが見せたのは次の瞬間だった。
「え?」
確かに私は現在、いつもならまず着ないような露出の多い服を着ている。
それでも、ここまでの反応があるなんて、思ってもいなかった私は呆然と声を上げてしまう。
そうして固まった私に対し、アイフォードの行動は迅速だった。
「着替えていたならそう言えっ!」
珍しくあわてたような声で、そういうと誰が何かを言う暇もなく扉を強引に閉める。
その時になって、ようやく少し頭が回転し始めた私は何とか口を開く。
「え、えぇ? 待って、用件は?」
「……前から言っていたコルクスが屋敷にくる日付だが、明日になることになった」
「コルクスが?」
「ああそうだ。……きちんと伝えたからな」
それだけ言うと、足早に足音が離れていくのが聞こえる。
そしてそれが完全に聞こえなくなって……ようやく私は自分の顔もアイフォードのことを言えないほどに赤く染まっていることに気づく。
顔を見なくても分かる得意げな声でメイリが聞いてきたのは、その時だった。
「で、何か私にいうことは?」
私はせめてもの抵抗で赤い顔だけは手で覆いながら、口を開く。
「……露出は嫌だけど、明日から私の着る服一緒に選んで」
「ここが押しどきだと思うんですけどね……」
そう呟くメイリに対し、私はただ無言で首を横にふることしかできなかった。
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