第51話 明日への決意
その差出人がメイリだと理解した私は、すぐさま中に目を通し始めた。
そして、そこに書かれていたことに目を通し、私はにっこりとほほえむ。
「……さすがメイリ、この短期間でよくこれだけの情報を集めてくれたわね」
その手紙に書かれていたのは、侯爵家でネルヴァとウルガが行ったことの経緯だった。
まず、侯爵家で大規模な横領が発覚したこと、そしてネルヴァがその横領の主犯とされていることが記されていた。
執事でありながら、横領を行ったネルヴァの罪は決して軽くはない。
いや、むしろ重いと言っていいだろう。
その上逃亡もしているのだ。
ネルヴァの罪は私達でも問題なく問うことができる。
そしてウルガがネルヴァの逃走を補助したことも、そこには記されていた。
それは間違いなく二人を罪に問える内容で、私は一つ武器を手に入れたことを確信する。
これだけの内容を調べてくれたメイリには感謝しかなかった。
しかし、私の顔に喜色が浮かんだのは一瞬だけだった。
「……でも、これだと決して強くないわね」
この内容は、私達の今の状況であれ、確実にウルガを罪に問えるものだった。
しかるべきところに、この証拠を出せばいずれウルガを監獄に入れることも不可能ではない。
……だが、これではウルガが横領したという直接的な証拠がないことに私は気づいていた。
もちろん、これでもウルガが言い逃れしようとしても無理がある。
抵抗しても、すぐに調査されて、いずれ監獄に入れられることをさけることはできないだろう。
──だが、抵抗はできるのだ。
私達が貴族であれば、その抵抗は厄介であれ、致命的なものにはならないだろう。
けれど、今の私達ではウルガが場当たり的な抵抗をしたときに、退ける手段がない。
少しの間裏を取る調査をするだけでも、私達には重大な被害が出かねないのだ。
そして、周りの貴族を味方につけ抵抗しようとするウルガにその隙を与えず監獄に入れるには、この証拠は少し弱いのだ。
そして、そのことにはメイリも気づいていた。
「……手紙の届いた二日後には、この屋敷に戻ってこようと思います。そこで情報交換しましょう、ね」
手紙に書かれたその言葉を読んで、私は眉をひそめる。
「こんなにメイリが働いてくれるのに、私は……」
実のところ、私の方に関しての情報収集はうまく進んでいなかった。
決して一切情報を手にできていない訳ではない。
だが、決定的な証拠を手に入れる事はできていなかった。
……というのも、ネルヴァがひどく私を警戒しているのだ。
何せ、ウルガが何かうかつなことを言いそうになる度に止め、私によけいなことを言わないよう言い聞かせている始末だ。
どこで痛い目に遭ったのかは分からないが、現状その態度は私にとって厄介極まりなくて、私は唇をかみしめる。
「それでも、明日には……」
だが、ここであきらめる訳にはいかない。
そう自分に言い聞かせた私は、改めて決意を固める。
明日には、必ず情報を集めてみせると。
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