第41話 咄嗟の判断
「う……」
引き出されたネリアはよろめき、何とか廊下の壁にすがりつくことで転倒を回避する。
しかし、老いた彼女にとってその衝撃は決して小さなものではないことが、私にも理解できた。
……どうして、ウルガがネリアにこんなことを?
まるで想像もしていなかった光景に、私の胸が嫌に大きな音を立てて鳴り始める。
ウルガが苛立ちを隠さずに、ネリアに叫んだのはそのときだった。
「なんなのよ、あんた! 私こんなしわしわな使用人嫌なんだけど。私は侯爵家夫人なのよ!」
その言葉に、私は思わず奥歯を噛み締めていた。
何だ、その理由は?
そんな理由で目の前の女は、ネリアに対してこんな行為をしたのか。
それで、アイフォードにどう思われてるのかも理解できないのか?
とはいえ、まずいと理解していたのは私だけではなかった。
ネルヴァが、ウルガを落ち着かせようと優しい口調でいさめようとする。
「……ウルガ様、お待ちください。ここであのアイフォード様の怒りを買うのは得策では」
「なに、私になにか文句あるの?」
しかし、それは逆効果だった。
それに更に気分を害した様子のウルガは感情のままに、ネリアへと手を伸ばそうとして。
「我が家の使用人がどうかいたしましたか?」
──その瞬間、私は何も考えず、そう前に出ていた。
まるで想像もしていなかった私の出現に、最初ウルガもネルヴァも怪訝そうな様子を隠すことはなかった。
けれど、少ししてその顔色を大きく変えた。
「……っ!」
「マーシェル……!」
思わぬ大きな反応に、一瞬私は驚く。
しかし、これを好機だと判断した私は、急いで未だ壁に手を突いているネリアの方へと走り寄った。
近寄ってみても、ネリアに大きな異常はなさそうで、私は表面上は顔色を変えず、内心安堵する。
そんな私に、焦ったような表情でネリアが何か言おうとする。
「ま、マーシェルさ……」
「しっ! 今は私に任せて」
しかし、それを制止させて私はウルガの方へと向き直った。
そんな私を睨みつけながら、ウルガは叫ぶ。
「何なのよ、あんた! どうしてこんなところにいるのよ……!」
その言葉に、私は内心どう対応すべきか悩む。
だが、その判断の答えは直ぐに出た。
この状況で、ネリアにウルガの対応を任せるなど、ありえない話だ。
……それに、これは私にとって好機でもある。
そう判断した私は、一礼する。
内心は自分がいま客に見えない格好をしていることを感謝しながら。
そして私は、にっこりと笑って告げた。
「この屋敷で侍女をしております、マーシェルと言います」
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