第17話 横領の発覚 (クリス視点)

 コルクスに言われた衛兵達が、続々と部屋の外に集まってくる。

 私がようやく事態を飲み込めたのは、その存在を感じる様になった頃だった。


「……あの、忌々しい奴らが」


 私の口からそんな罵倒が漏れる。

 一体誰が横領をしたのか、そんなこと私にはもう分かり切っていた。

 つまり、私がクビにした使用人が腹いせに横領を行っていたのだと。

 それ以外考えることはできないのだ。

 何せ、ネルヴァは今や私の腹心の部下で、今屋敷にいる使用人達はネルヴァの手の者だ。

 そんな人間が、横領などを働くとは思えない。

 考えられるのは、私に冷遇されたと思い込んでいる人間だ。


 コルクスが、私のところにやってきたのは、ちょうど苛立ちが我慢の限界に達するころだった。


「休暇中のものまでは集められませんでしたが、ことは急を要します。これで下手人を捕まえにいきたいのですが、よろしいでしょうか?」


「かまわん! なんとしてでも、横領した者を捕まえろ!」


「承りました。それでは私が案内させて頂きますので、万が一を避けるために衛兵に囲まれた状態でついてきてください」


 そう言うと、コルクスは先頭に立って走り出す。

 その姿はまるで老年なのが信じられない様子で、私はにやりと笑う。

 コルクスは責任を感じているに違いない、そう思って。


 今まで私がクビにしてきたのは、コルクスと近い使用人達だった。

 その責任を感じているが故に、今コルクスはこれほどまでに必死に動いているのだろう。

 先程まで、私に生意気な態度を取っていたのを、後でどう謝ってくるつもりなのだろうか、そんな想像に私の笑みは濃くなる。

 その罪悪感を利用すれば、家宰の座もコルクスから奪えるだろう、そう思って。


 ……私の笑みが固まったのは、衛兵の向かう先に気づくまでのことだった。


「は?」


 呆然とした声が私の口から漏れる。

 それも仕方ないだろう。

 衛兵達が向かっているのは、屋敷の玄関ではなく中だったのだから。

 それは本来なら、あり得ないはずだった。

 なぜなら、クビにした使用人達はもう屋敷の中にはいないのだから。

 けれど、衛兵達はとまらない。

 先頭のコルクスに導かれるまま、まっすぐ屋敷の奥へと向かっていく。


「……どういうことだ、これは」


 そして、たどり着いた場所を見て、私の口からかすれた声が漏れた。


 ──そこにあったのは、私がネルヴァに与えたはずの部屋だったのだから。

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