第14話 揺るがぬ視線 (クリス視点)
執事が去った翌日、私は悩んだものの書類を持ってコルクスを呼び出すことを決めた。
正直、あの小うるさい爺を解放すべきかどうか、私は非常に悩んだ。
しかし、労働力の少ない今、ある程度役に立つ家宰を遊ばせておく余裕はなかった。
「まあ、といってももう家宰として使う予定はないがな」
そう言いながら、私の頭に浮かんでいたのは昨夜ネルヴァと行った会話だった。
その際、ネルヴァと話し合い、正式にネルヴァを家宰とする方向で私達は決定していた。
そう告げた時のコルクスの反応を想像しながら、私は近くにいた使用人に向け告げる。
「地下牢にいるコルクスをつれてこい!」
◇◆◇
それから、衛兵が連れ添った状態のコルクスがやってきたのは直ぐのことだった。
地下牢から出され最低限の衣服を着せられただけと思しきコルクスは、多少やつれていた。
……しかしそれだけで、厳しい眼光は変わることはなかった。
「クリス様、一体今回はどうしましたかな?」
その口調からは一切の心の揺るぎも感じることはできず、私は不愉快さを感じ、僅かに顔をゆがめる。
しかし、直ぐに口元に笑みを浮かべて口を開いた。
「なに、そろそろ反省したと思って出してやっただけだ。そのことに感謝してこれまで以上に尽くせ」
「恐れながら、私は間違ったことは何一つ言っておりませんので」
「……っ!」
私が必死に抑えてきた怒りの限界を感じたのは、その瞬間だった。
コルクスをにらみながら、私は叫ぶ。
「まだ口を慎むこともできないのか?」
「クリス様も理解していないとは言わせませんぞ。この一ヶ月で、奥様のいない穴を感じない訳がない」
その言葉に、私は一瞬言葉が口から出てこなかった。
あふれる書類の山が瞬時にまざまざと私の頭をよぎり、けれど何とかそれを私は頭から振り払った。
ネルヴァも、それはあくまでマーシェルのさぼりの結果だと言っていたではないか。
そう自分に言い聞かせながら、私は叫ぶ。
「そんな大きな口を利けるのも今日までだと思っておけよ、コルクス。お前はもう家宰ではないのだからな」
その告げた瞬間、私は泣きわめくコルクスを想像していた。
みっともなく、慈悲をこうてくるコルクスが見られるはずだと。
「ほう、それはよき考えですな」
……けれど、その私の想像は裏切られることになった。
「この老いぼれもそろそろ休ませてもらいたいと考えていたところでしたので」
そう告げたコルクスの鷹のように鋭い視線は、一切変わることはなかった。
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