第56話 ショタ好きの友人はとりあえずスルーします
似ている。誰かに。
最初に感じたのはそれでした。
リオン?
似ているけど……違う。
ティルト=シルバスティンはその小さな体を紺地に銀糸をあしらった礼服で包んでいました。母親のニーナよりほんの少し緑がかった銀髪は長く、三つ編みにして後ろに垂らしてあります。つぶらな銀の瞳は天使のような愛らしさ。
「か、歓迎します。我が従姉。フラウ殿」
唇を震わせながら、たった七歳の当主は挨拶を述べました。
事前に練習したのでしょうが、年の割にしっかりしているようです。
「きゃわわわわわわわわわわわわっ……‼」
私の隣で奇声を発している友人のほうがよほど精神年齢が幼いかもしれません。
「エリシャ。落ち着いてください」
「だっ、だってっ、こんな可愛い子ががががが」
推しセンサーが激しく反応したらしく、顔を紅潮させたエリシャはうっすら涙さえ浮かべています。
「リオンから乗り換えるつもり?」
「もちろんリオンきゅんが一番だけど! さすがにこんな小さい子は犯罪だし!」
十二歳の少年にガチ恋するのもまあまあ犯罪だと思いますが……。
小声でやり取りする私たちをティルトが困ったように見上げていることに気がつき、私は彼に向き直りました。
「失礼しました。お会いできてうれしく思います、ティルト様。こちらは……」
「フラウちゃんの大親友、エリシャです!」
「……だそうです」
エリシャは喜色満面ですが、ティルトの顔は晴れません。
無理もないでしょう。このような幼子が《白銀》の当主という座に据えられ、大人たちの集まる場に立たされているのですから。
「ティルト様」
私はさっと膝を折り、目線を合わせて彼の小さな手を握りました。戸惑うようにこちらを見る銀の瞳に向かって微笑みかけます。
「どうぞ仲良くしてください」
「あ……えっと……」
天使のような顔を赤く染め、彼がうなずきかけたとき、
「ティルト」
静かな声がそれを制しました。
背後からふっくりと肉厚な手が降り、彼の肩に載せられます。
「ご挨拶はそのくらいにして。フラウも疲れているのだから」
「………はい。母上」
ティルトの背後に立つニーナを見上げながら、私は無言で立ち上がりました。
まずは当主の懐柔をと思いましたが──そう簡単にはいかないようですね。
ぎこちないお辞儀を残し、ティルトは乳母と思しき女性のほうへ行ってしまいました。
「さあ、城へ入りましょう。部屋に案内させますよ」
「ありがとうございます」
「遠慮はいらないわ。この城はいずれ、あなたのものになるのですからね」
「………」
さりげなく圧力をかけてくる叔母に、ひとまず曖昧に微笑んでおきます。
「……握手……ずるい……」
亡霊のように呟くエリシャのことも、とりあえずスルーしておくことにしました。
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