第56話 『収納』と稲荷さんの新たな真実

 軽自動車の後部座席が、荷物でギューギューになった状態。辛うじてバックミラーで後ろが見えるくらい。

 ちょっと欲張って、リンゴの苗木を買ってきてしまったのは、失敗だったのか、成功だったのか。

 変な煽り運転に出会わないことを祈りつつ、管理小屋に向かう。

 平日のわりに利用客が多いのは、季節柄というのもあるのだろうか。紅葉がいい感じに進んでいるのもあるのだろう。

 管理小屋に行くと、若者スタッフが私の顔を見ただけで稲荷さんを呼んでくれた。


「今日はどうかしましたか」


 いつものようにお茶と煎餅付き。


「あぁ、そのちょっとご相談が」


 そこで野菜の話をした。見本でスマホで撮ったキャベツの画像を見せると、さすがの稲荷さんも顔を引きつらせている。


「これ、こっちで販売とかってできませんかね?」


 何気に、こっちの世界の人脈のある稲荷さんに期待。

 これで売れれば、ちょっとは日本円での収入になるんだけれど。


「あー、残念ながら無理です」

「やっぱり。ちょっと、大きすぎて難しいですか。他のも、ちょっとデカくて」


 直売所とかでも見かけないデカさだもんなぁ。


「いえいえ、大きさの問題じゃないんですよ」

「ん? 他に何が」

「あー、あちらの物は、こちらに持ち出しが出来ないんです」

「え?」


 稲荷さん曰く、異世界の物は、トンネルを通ると消滅してしまうらしい。

 そう言われて、自分でこっちに運んだことってないことを思い出す。

 しかし。


「稲荷さん、持ち帰りましたよね? お芋」

「あれは、私の『収納』に保存しましたから」

「え?」

「私の『収納』には時間の流れは関係ないのです。なので、ずっと保存できます。あちらで食事をする時もあるので、その時に頂いてますよ。あの芋、なかなか美味しかったんで……また、頂いてもいいですか?」


 ……稲荷さんの『収納』、ズルい。

 神様仕様なのか、と、思わず聞いてみたら。


「ああ、私の『収納』はレベルがマックスになってるんですよ」

「レベルマックス……」

「ええ、ですから、望月様も『収納』のレベルを上げれば……」

「ずっと保存できるってことですか!?」


 身を乗り出して聞いてしまった。


「は、はい」


 それを聞いたら、俄然、バージョンアップしまくる気になる。最近はKPの消費ペースが減っているから、結構残っているはずだ。あっちに戻ったら、さっそくタブレットとにらめっこだ。


「そ、そういえば、冬ごもりの準備は大丈夫ですか?」

「冬ごもり?」

「ええ、ここのキャンプ場、冬季は休業してしまうんで、誰もいなくなるんですが」

「え、稲荷さんは?」

「私の家に引きこもる予定でして」


 そんなの初耳なんですけど!


「ていうか、稲荷さんの家、あっちにもあるんですか!?」

「ありますよぉ。一応、嫁と子供もおりまして」


 ……知らなかった。

 お稲荷様の嫁と子供……凄く気になるのは、私だけだろうか。

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